第百八十二話
あけましておめでとうございます!
今年も『異世界無双ハーレム物語』をよろしくお願いいたします!
「ふわぁ~むにゃむにゃ……ん~起きてるよォ」
俺の呼び掛けに答えたのは寝起きたばかりの、本の状態のフェルだ。念話での会話ではないため、彼女の声は近くに立っているボーガン使いにも聞こえる。でもフェルの事を知らない彼には声がどこから発されたかのを理解できる筈がない。が、さっきの俺の発言で何となく声の主たるフェルの正体を理解したかのようで、みるみるうちに彼の表情は驚きから恐怖に変えた。
「ごめん、こんな時間に起こして。さっきの作戦は聞いてた?」
「うん……聞いたよォ~」
「そっか。予定より早いけど、任して良いか?」
「はぁい~」
狼狽えるボーガン使いを無視し、俺とフェルは作戦の第二段階の実行に移った。本来これはセツがイリアに託された仕事を終わらせた後で実行する筈だけど、セツがここを後にする直前にイリアが「もしボーガン使いが俺の前に現れたら作戦の第二段階を実行する」言っていた。
もしかしたらイリアはセツと合流した時から今のボーガン使いと接触することを予想していたのか?もしそうだったら、一体どこまで予想できたのだろう?本当、彼女が味方でよかった。
「面倒から早く終わらせてねェ……」
まっ、そんな事はさておき。いつの間にか擬人化したフェルが片手で開いた魔導書(自身)を彼女の前に構えた。そして紡いだ言葉と共に多量の魔力で生成した鎖と炎が開いたページから勢いよく噴き出した。
「おいでェ、フェニックスゥ~」
気づけば周囲は炎の海になり、それらから発する熱気は氷点下の夜の砂漠がさながら真昼の砂漠と勘違いする程まで上昇した。やがてそれらの炎は一箇所に集まって、直径20メートルほどのミニ太陽になった。そのミニ太陽を絡む形でフェルが持つ魔導書から十数本の魔力の鎖が薄っすらと見える。そして次の瞬間――
「「ッ!?」」
――甲高い金属音が灼熱地獄と化した夜の砂漠内に鳴り響いた。
その音がミニ太陽を絡む鎖は一本を除いて、全てが砕けた。束縛から解放されたミニ太陽は段々と膨れ上がり、やがて十秒も満たない時間の間に『塔』の地下で嫌というほど戦ったフェニックスの姿に変えた。
「お、おい!ちょっと待って、てめぇ……今なんつった!?」
「ん~?」
「てめぇ……フェニックスって言ったか!?その名はかの地の守護神の名だ!てめぇは――」
「いってらっしゃいィ~」
ボーガン使いの怒鳴り声を見事にスルーしたフェルは可愛く手を左右に振りながらボーガン使いの罠に束縛された大蛇の所へ向かうフェニックスを見送った。当然無視されたボーガン使いフラストレーションが溜まり、何より彼が言っていた守護神のこと絡みでまさに顔がまるで般若みたいになっている。
それでもでも何とか拳を握り締めて小刻みに震えながらも自分を抑えていた。物凄いフェルを睨んでいるけど、それに気付けず、もしくは敢えて無視したのか、フェルは相変わらず眠たげな声で次の言葉を紡いだ。
「じゃあボクは寝るから終わったら起こしてねぇ~」
「え?あ、あれは放置してもいいのか?」
「うん?ああ~大丈夫だよォ~ボクが寝ても逃げられないしィ、ボクの命令に逆らえないから安心していいよォ~」
「フェニックスの事じゃな――」
「じゃあ、おやすみィ~」
さ、流石は怠惰の大罪悪魔の……!何だかちょっとわがままでマイペースな妹を持っているみたいで可愛い!やばい、戦闘中なのに急に彼女を甘やかしたい気分だ!
『……レヴィの事も忘れるな』
『ああ、勿論覚えてる』
『ならさっさと終わらせよう。そしたらレヴィの治療とフェルともイチャイチャできる、一石二鳥よ』
確かに……!って、イチャイチャって言うな!せめて親睦を深めると言え。
「よーし、俄然やる気が出たぁ!」
「うわっ!?いきなりどうした!?てか、てめぇらがフェニックス様を奪った連中とグルだったのか」
これまで聞いたことのない、ボーガン使いの感情が一切聞き取れない程冷酷な声にデュラハン戦やフェニックス戦並みのボス戦特有の緊張感と高揚感を抱き始めた。おっと、駄目だ。今までの話の流れ的に彼から色々と情報を引き出せそうだ。だから我慢、我慢っと……
「いいや、どっちかというと俺達はお前が言う連中とは敵対している」
「…………」
「お前が言う守護神の事は知らないが、多分フェニックスを攫わったのは初代勇者の仲間かその関係者だ」
「……どういう意味だ?」
「大罪悪魔の存在は知っているな?その内の一人はラトスって町の地下に封印されていた。フェニックスはそこで封印の番人みたいに扱われたぞ?」
「馬鹿げた事を!?勇者がそんな事をするはずがない!まるで見てきたような口……!し、証拠ではあるのか!?」
明らかに動揺している……それまで彼が勇者という存在を信頼している証拠だ。これまでは流石に予想外な反応だ。フェニックスが大蛇の相手をしている内に、セツの仕事を終わらせる内に予想以上の収穫が得られそうだ。
「……証拠もなにも、お前もフェルを見た筈だ。彼女こそが俺の言葉を証明する何よりの証拠だ」
「フェル……?さっきの女か?彼女がいった――まさかッ!?」
「そう、そのまさかだ。彼女こそが大罪悪魔の一人であり、今は……そうだな、可愛い妹かな?」
さっきから俺の言葉につれ、増々とボーガン使いの表情を浮かべた。さぁて、俺からの情報供給はここまで、次はお前の番だ。お前が知る、この世界とその歴史に関する情報を寄こしな。