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異世界無双ハーレム物語  作者: 時野ゼロ
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第百六十九話

 その日の夜、レヴィに導いてひたすらに北上する俺達はとある広い砂漠に入った。レヴィ曰く、目的の大罪ダンジョンはこの砂漠の中心部分の何処かに存在しているとのことだ。一応夜の砂漠は酷く冷える事は事前に知っているからある程度の準備を済ませたけど、流石と言うべきか。


 普段から氷結魔法に長けたレヴィとの模擬戦や強化魔法の恩恵で移動中に凍え死ぬ事は無いけど、目的地はこの砂漠であるのは確定したからここから離れることは無い。つまりこの寒さで一夜を過ごさないといけない事実を意味する。極寒の地で生まれ育ったセツと氷結魔法を使うレヴィはまだしも、俺に一晩中強化魔法をかけ続ける魔力は無いし、クレナイもこの寒さを凌げるように思えない。現に俺達が砂漠地帯に踏み入れてから暫く移動したら明らかに彼女の反応が遅くなり、集中力も少し低下している。細かく見ていないけど、彼女の指先が青紫に変色しても驚かない。


 そろそろ明日に備えて休息するって言ったレヴィは念話を通じて、密かにイリアに適当な岩場の洞窟を見つけ出して、そこで一夜を過ごすに決めた。奥行5メートル弱の、決して大きいとは呼べない洞窟の奥に火魔法と森林地帯から取った木の枝を使った焚き火を四人で囲って暖を取った。


 暫くすると、その日のちょっと遅めな夕食を準備する時にクレナイが彼女に任せようと申し出た。彼女曰く、俺達の調理工程は見るに堪えないらしい。……調理と言っても俺達はただ『塔』でセツが狩った動物型のモンスター(血抜き済み)を食えるサイズに切って焚き火で焼くだけだ。料理経験の無い三人が出来るのはこれぐらいが限界だ、これでも中々の上出来だと思っているぞ。


 クレナイも譲る気はないみたいだから、試しに彼女に今夜の夕食を任せてみた。勿論毒などが仕込まれていないか、密かに何度も魔眼を使っていた。そこから更に数十分後、美味しい匂いを漂うモンスター肉の煮物が出来上がった。最後にもう一度魔眼を使ったが、異物と呼べる異物は見当たらなかった。その味は俺達がこれまで作ったどの料理を遥かに上回る程の絶品だった。セツとレヴィも大絶賛したにも関わらず、本人は些か不満げなのは何だかムカつく。


 因みに彼女は使った肉の正体が分からず、彼女の「これは何の肉でござるか?食べた事が無いにござる」の発言に対し、適当に「ラトスの町の外で狩ったから名前は知らない」と答えた。まっ、この界に知らない方が良い情報だってあるんだ。このモンスターの肉を食う行為はこの世界でどう思われているかは分からないが、告げない方が面倒事も少ない。そんな俺の考えを察知したセツとレヴィも俺の話に合わせてくれた。


 と言う訳で、満足度が高い夕食を堪能した俺達は俺、セツ、クレナイ、レヴィの順で夜の番を行った。この順番になる原因は焚き火を維持するに必要な火魔法を使えるのは俺とクレナイだけ。ラトスの町で買ったマナクリスタルに蓄える火属性の魔力の量と消費ペースを考えて、長くても四時間しか持たない。だからこうして、俺とクレナイが交互に起きる必要が有った。


 それとは別に、クレナイの番になったら非実体化のイリアとイジスが代わりに彼女を見張っていた。これは彼女が夕食の準備中に念話で決めた事で、最初はあまり賛同できなかったけど、彼女の闇討ちを警戒し続けてまともに休息が取れなかったら本末転倒になるから渋々その作戦に頷いた。結果だけを言えば、何も無かった。尽きかけの火魔法の魔力を補充してからひたすらに洞窟の外を見詰めていた。誰かに合図を交わす素振りは勿論、魔力を使用した罠なども仕掛けなかった。


 無事に二日目の朝を迎えた俺達はレヴィ(イリアの助力アリ)を先頭に、更に砂漠の奥地に進めた。昨夜の超低温と裏腹に、昼間の砂漠の気温は恐らく50度を超える程跳ね上がった。昨日は一切の不快感を出さず、寧ろ涼しいなまでに行動したセツは溶けかけのアイスみたいな状態になっている。すぐさまレヴィは彼女に≪吹雪(ニ―ヴィス・)の帳(ヴェラメン)≫を掛けた。それだけじゃ無く、レヴィも昨夜の見張り番中に氷結魔法が込められたマナクリスタルのペンダントを渡した。


 そのペンダントに込められた魔力量も焚き火のと同じ、約四時間しか保たない。セツほどじゃないけど、俺とクレナイも相当暑かった。が、魔力が完全に戻っていないレヴィにこれ以上の負担を掛る事はできない。だから願わくば早めに目的の大罪ダンジョンに入って、この猛暑と極寒を凌げたい。そんな思いを一心に砂漠を駆けて――


「ここだ」


――砂漠のど真ん中に止まったレヴィがそう告げた今に至る。


「ここ……にござるか?」


 レヴィの言葉にクレナイは疑問を口にした。まぁ、無理も無い。今の俺達は数回の休憩を経て、イリアの予測通り、二日目の夕方で目的の大罪ダンジョンに辿り着いた。しかしそこはダンジョンと呼べる建築物どころか、俺達以外の生物すら見当たらない。視界を埋め尽くす一面の砂と地平線の向こうに微かに見える砂丘のみ。


 とすると考える可能性は二つ。一つ目はこの砂漠自体が大罪ダンジョンになっていて、封印される大罪悪魔はイリアが目的地と呼ぶこの辺りの何処か。そして二つ目は……


「結界か」

「そうだね。マスター、頼めるの?」

「へ……?」

「結界の解除だよ」

『私の指示に従って』

「あ、ああ。分かった」


 突然指名されて一瞬戸惑ったけど、どうやらイリアが結界を解除する時に彼女の指示で動き、クレナイにイリアの存在を知らせたくない為の影武者として演じるみたいだ。


『そこから前へ二メートルぐらい歩いてから片手を地面に触れて。そこから私が三、二、一とカウントダウンする。カウントがゼロに成ったら地面に着いた掌から少し魔力を放ってね』

『分かった』


 えっと、二メートルぐらい前へ……この辺りかな?そして片手を地面に触れて。これぐらいで良いのか?


『なるほど……これはまた、大層な結界が張られたな』

『行けそうか?』

『心配ない。『塔』の物より簡単だ。さて、行くよ』

『うん、何時でも大丈夫』

『よし。三……二……一……ゼロ……!≪術式廃棄(スペル・パージ)≫!』


 イリアが魔法を唱えた刹那、俺は指示通りに魔力を放出した。次の瞬間、目の前の空間に無数の亀裂が生じ、それらは凄まじい勢いで広がっていく。やがて――


――パリィィィィン!


――と、ガラスが割れた甲高いが日が沈んだ砂漠内に響き渡って、砕け散った。


 結界が砕け散ったに連れ、俺達の周りの景色も一変した。目の前に広がる何も無い砂漠だった光景が突如出現した高さ500メートル以上、横幅一キロを優に超える赤黒い巨壁によって塞がれた。


「「…………」」


 この光景を目の当たりにしたセツとクレナイは絶句した。まぁ、事前にイリアから結界の中身を聞かなかったら俺もそうなる。


「周りの空間を狂わせる結界ね……」

「……どういう、意味?」

「この結界は内部の物を外から隔離する効果を持っている。ここに近づく者が見た景色は結界の向かう側の物で、このまま進めば壁と激突することなく向う側に出る仕組みだ」

「ちょっと待って。結界の向う側って、この結界の広さは一キロ以上あるぞ!」

「落ち着け、マスター。それ程規格外の存在って事だよ、初代勇者は。こうも無ければ魔王様が破れる筈は無いよ」

「……っ!」

「さぁ、夜の砂漠の寒さにやられる前に入ろうね?」


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