第百六十八話
気付けば総合評価が1000ptを越えた!? Σ(゜゜)
興味本位で書き始めた本作がこれまでのポイントを貰えるのは正直思いもしなかった……
本当にありがとうございます!
これからも『異世界無双ハーレム物語』を応援し続けば幸いです! m(_ _)m
【レイの視点】
鬼族の女性、クレナイと出会って、彼女の口から桜都の現状を聞き出して、その加勢に参加する事を決めた。宿屋内での交渉が終えてから二日が経った。セツの目覚めを待つ時間に監視の名目も兼ねて俺とクレナイは宿屋から出て、『塔』の攻略で消費したポーション類を補充した。
実はセツは交渉の翌日の昼頃、俺とクレナイが宿屋から離れた際に目覚めた。でも彼女の体調面やクレナイへの疑いなどの理由でその事を隠して、その日の夜遅くに目覚めたってクレナイに伝えた。流石に街中、ましてや宿屋の中にフェニックスを呼び出して確認する訳はいかないから、セツの状態はイリアが一日中診てもらったからまず間違いはないだろう。
イリア曰く、魔剣を使った事で崩壊寸前の身体を、ほんの一夜にして万全に近い状態まで回復したみたいだ。という訳で、俺達はセツが目覚めた次の日の早朝でラトスの町を後にした。そして俺達は今、レヴィを先頭に、次なる大罪ダンジョンを目指している。クレナイの話によると、離島である桜都から出る際に使用した小船以外、彼女は自分の足だけでラトスの町に辿り着いた。ほぼ無休で走り続けた上、俺の至近距離の≪火の銃弾≫を無傷で凌げたことから彼女の身体能力は申し分ない。
と言う訳で、能力隠蔽の意も兼ねて強化魔法以外を使わず、ラトスの町から少し離れた森林を駆け抜けていく。途中で時折に小型のモンスターと遭遇するが、俺達の脅威になっていないし、特に襲って来る気配も無いから無視した。隣に走っているセツも難なく俺達のスピードに付いていて、斜め後ろのクレナイも奇襲を仕掛ける素振りを見せないから一先ず安心かな?
「このペースだと……多分明日の夕方ぐらいで着くね」
と、先頭で走るレヴィがそう呟いた。
「思ったより近くにいるな……」
「拙者達は相当速く走っているにござる。常人なら三日掛かる距離を移動したにござる」
「三日!?」
「マスターは契約とレベル上げの恩恵で常人じゃないからねぇ……まぁ私達は一直線で目的地を目指しているから近く感じるのもおかしくない」
「ちょっと待って、レヴィ。今しれっと俺をディスってないか?」
「……どうかお許しください、レイ殿。レヴィ殿もそのようなつもりはござらぬ」
「いや、俺は別に怒っていな――ひっ!?」
「レイ殿……?ねぇ、マスター?マスターはいつからクレナイに名前を教えたの?」
周りの樹々を縫うように疾走しながら他愛もない会話を続けた内に、背筋が凍り付く程の寒気を感じた。その寒気、と言うより殺気の発生源は言わずとも分かる人物、すなわち目の前に走るレヴィからの物だ。ディメンション・ウォーカーレベルの殺気を放ちながら紡ぎ出した言葉は絶対零度を彷彿させる程冷たかった。
「い、いつって……二日前、ポーション類を補充する時に」
「ほう……」
「いや、だって名前を知らないと不便じゃないか?日常会話や戦闘中に」
「…………」
「…………」
『マスターはまさかあの鬼族に心を許したのか?』
何故か黙り込んだレヴィに声を掛けるか迷って瞬間に念話を通じて、彼女の声が聞こえた。あっ、なるほど。その沈黙の間は現実での会話を念話に切り替える為の間だったのか。いつものレヴィならこの間は要らなかった。それだけ、彼女の状態は万全じゃないって事か……
『許していないさ、ただ本当に会話が不便だけだ。それと……』
『…………』
『俺は彼女に心を許していないし、今でも疑って彼女の行動を時折観察する。それでも俺は少し、彼女は本当に祖国を救う為にこんな危険な賭けにでたと信じたい』
『……普通の者ならそんな考えを明かさないぞ。黙るなり、誤魔化すなり……イリアさん程の洞察力の持っていない私なら、そう難しく筈よね?』
『どうだろう?そもそも俺は大切な人に嘘や隠し事をしないつもりだ。五年以上一人ぼっちの生活を送った俺には他人のやり口は知らないけど、少なくとも俺はレヴィを信じている。それに、俺はお前らを失う事が何よりも恐れている』
あれ?念話を通じてレヴィに心の内を明かした事で変な羞恥心に苦しめられて、暫く放心に近い状態に陥った。ほぼ無意識に森の中を疾走したのに、何にもぶつからないという奇跡が霞む程、レヴィから発した殺気が消えた。
「……まったく、マスターは人好し過ぎ」
『そうだねェ~』
『フェル!?起きていたのか』
レヴィがボソッと呟いた言葉を聞いた次の瞬間、今度は念話から今まで寝ていると思われたフェルの声が聞こえた。
『あんな殺気を浴びてェ、寝れるのォ~?』
『……びっくりした』
『二人を驚かせて、ごめんね』
『いや、お前が謝るべき人物はもう一人残っている』
フェルの言葉を始めとして、次々と聞き慣れた声が念話に参加した。
『え?』
『お前を探す為に遥々からやって来た鬼族の娘だよ』
『『あっ……』』
イリアに指摘され、俺とレヴィは同時に声を上げた。確かにクレナイは俺の斜め後ろに走っているとはいえ、そこまでの距離は空いていない。なら彼女も多少レヴィの殺気を浴びた筈だ。セツは慣れたから騒いていないけど、普通なら心臓が突然の負荷に耐え切れずショック死する。慌ててレヴィと共にクレナイの方を振り返ると――
「ひっ!?」
――百メートル以上離れた場所に俺達の視線を感じて情けない悲鳴を上げた彼女の姿があった。
顔が酷く青ざめて、不安定な足取りで辛うじて樹の根っこを避けつつ、何とか俺達の後ろに付いている。よく見たら彼女の手は小刻みに震えていて、俺達が振り替えた事に反応して、悲鳴を漏らしながら涙目になった。
「れ、レヴィ殿……?拙者、拙者はなにかお怒りに……?」
この後、俺とレヴィが二人係で精神が崩壊寸前のクレナイを慰めて、彼女がセツに対する敬意が跳ね上がったのはまた、別の機会に語れる物語である。