第十七話
「うっ、うぅ……」
重い目蓋を開き、最初目に入ったのは初さっきまで見ていた石造りの天井だった。
「あっ、レイさんおはようございます」
右側から俺の顔を覗いた女性がいた。
「お、おはようございます。え~と…」
「まだ自行紹介してないですね。私はイジス、イリアの親友です」
「貴女がイジスさんですか。初めまして、俺の名は逆崎零」
「ええ、知ってます。うふふ、そう固くならないで、レイさんは私の命の恩人ですから敬語は要りませんよ」
「じゃ、イジス?」
「はい、よくできました!」
「どのぐらい気絶してた?」
「大体一時間ぐらいです」
「あれ、イリアは?」
「そっちで外の様子を見てます」
「そっか。悪いがイリアを呼び戻せるか?今の俺は動けそうにない」
「はい」
~
「レイ、起きたか」
暫くすると、イジスはイリアを連れ戻った。今から二人と真剣に話したい事が有る。流石に、横に倒れたままじゃ格好悪いから、イジスがイリアを呼び戻す間は何とか体を付近の柱に寄り掛かる態勢に移った。
二人とも俺の目の前に座った。さっきは横で倒れたからはっきり見えないけど、イジスもイリアに負けない美貌の持ち主だ。服装はイリアをほぼ変わらないが、スカートの丈はイリアのより長い。イリアの方はミニスカートでイジスは膝の上までの長さだ。イリアの目は魔眼のせいでオットアイだけど、イジスは両目揃っての翡翠色。目と同じ色のロングストレイトな髪。イリアを冷静なクールの美少女なら、イジスは優しい、癒し系の美少女だ。
「……」
やばい。イリアは凄い俺の事を睨んでる。また思考を読まれたか。俺はイリアの無言な圧力に耐え切れず……
「ごめん」
「……まぁいいわ。今回は許す。それで、わざわざ私達を集めて話したい事は何?」
「…俺、さっきネクトフィリスに会えた」
「分かってる。彼も私達の前に現れた。そしてレイに会う決意も話した」
「そっか。先ずは…あいつを救えなかった、ごめん。あいつ自身は気にずんなって言われたけど、俺はちゃんとイリア達に謝れたい」
「あいつがそう言うのなら、心配するな。そもそも私があいつの封印が解かれた時に分かったんだ、もう無理だって」
イリアの話が終わる途端、イジスは俺の右側に回し、優しく俺の頭を抱いた。
「そうですよ。ネクトフィリスさんはあれで良かったです。私を魔力源として、大好きなこの世界の人を殺す事は彼にとって拷問に等しいなの。そんな苦痛を経験しながら生きてるより、レイさんは彼を苦痛から解放した。それこそ、彼にとっての救いです。だから、自分を責めないで。私も、イリアさんも、ネクトフィリスさんもレイさんのした事を責めたりしません。レイさんは悪い事なんて何もしてません、寧ろレイさんは二つの命を救ったのです。もっと自分に自信を持ちなさい」
イジスの言葉で俺は思わず頬を濡らした。
「レイっ」
俺の様子を見たイリアもまた、イジスの反対側で俺の抱き締めた。最初で俺を抱いたイジスはその腕に力を込めた。その時、俺は気付いた。左右両方から小さな嗚咽が聞こえた。さらに、俺の頭を抱いている筈のイジスはいつの間にか俺の首元にその頭を埋めた。そして、首元と左肩は少し、濡れている感じもした。
そっか。一番悲しむべき者は俺じゃなく、この二人の方だ。昔からの知り合いの理性を失い、自身を道具として、彼の大好きなこの世界を壊すはめになり、挙句自分の手で友を殺した。そう理解したのに、両目から溢れる涙と心の奥底から湧き上がる悲しいが止まらない。俺は二人の後ろに手を伸ばし、二人を強く抱いた。
俺達はこの状態で暫く泣き続けた……