第百六十四話
「何事だ!?」
「おい!こっちに酷く荒らされた跡があるぞ!」
「大変だ!一階で凄い数の人が倒れている!」
ざわざわ……≪火の銃弾≫を使った直後、『塔』の周りに見かけた警備員と同じ軍服を纏った武装集団がやって来た。どうやら第一階層で気絶した者達が見付かったらしい。出来れば騒ぎ立てたくないが、大太刀の女性に放った魔法の爆音が鳴った時点で台無しなったから今更『塔』の異変を気づいても大して変わらないか。
そんな兵士たちの様子を、俺達は近くの建物の屋上から眺めている。因みに件の女性はというと――
「…………」
――現在進行中で隣から俺を睨んでいる。
どうしてこうなった?この疑問を解くには数分前、正確には俺が放った魔法の爆音が鳴った直後から説明する必要はある。
~
時を遡って、数分前………
大太刀を背負った着物の女性に向けて、炎の銃弾を撃った。それに引き起こした土煙はすぐさま華奢な手が振り払った。あの至近距離で炎の銃弾を喰らってノーダメージか……なら次はもっと火力がある魔法で――
「お、お待ちを!拙者は敵ではござらん」
「は?じゃあ何故大罪悪魔の事を知っている?」
「我々はその方々の味方である故」
「我々?何人かいるのか?そもそも初代魔王は世界共通の敵なのに、味方が――」
『レイ、話は後だ。騒ぎに駆けつけた集団が今こっちに向かっている』
「チッ、予想より速いな……」
「あ、あのォ……?」
「はぁ……一旦ここから離れるぞ」
「か、畏まりました」
そんな訳で俺達は近くの建物の屋根の上まで逃げ込んで今に至る。
「言っておくが、俺はお前を信用しない」
「はい……」
「ねぇ、マスター」
「ああ、色々訊きたい事があるが、先ずは場所を移動しよう。どこか『塔』から離れた所の宿を探そう」
「…………」
「そんな捨てられた子犬みたいな目で俺を見るな。話しぐらいは聞くつもりだから当然同行して貰う。もし妙な真似をしたら――」
「わ、分っております」
「はぁ……」と、小さく溜息を吐いて、イリアの指示に従って警備員達及び集まってきた野次馬の視線を掻い潜って屋根の上から降りた。
「いらっしゃいませ。食事ですか?それともお泊まりですか?」
と言う訳で、俺達は無事に町の郊外にある宿らしき建物に辿り着いた。ここに来る途中で気絶したセツを背負うレヴィは人目を引くと思ったけど、元々ここは『塔』の攻略及びそれらのサポートを目的として集まった人達に築き上げた町であるこそ、ここの住民は『塔』の攻略で重傷を負った人達の姿は見慣れていたから意外と問題無く通れた。寧ろこんな美少女達と一緒に歩いている俺の方が注目を浴びているぐらいだ。
閑話休題。特に怪しまれる事も無く、宿の受付に二階の空き部屋まで案内された俺達は一先ずセツをベッドの上に寝かせた。なお部屋は俺、レヴィとセツ、そして着物の女性の三つを取るつもりだったけど、なぜかレヴィに反対された。まぁ、一応万が一の時にいち早くセツの元まで駆けつけられる、という彼女の言葉も一理が有るから反論が出来ず、結果的に俺達と着物の女性の二部屋を借りた。
「さて、本題に入ろうか。お前は一体何者で、何で俺達と接触してきた?」
「……桜都四季が一人、名をクレナイ。主君である帝様の命にて、馳せ参じました」
セツが寝ているベッドから少し離れた部屋の隅っこで俺達の会話が始まった。彼女の自行紹介に聞き慣れない単語が幾つか混じっているが、少なくとも彼女の名前はクレナイで帝とやらの命令で俺達との接触を図った。
「桜都……極東の秘境ね。なるほど、クレナイさんが大罪悪魔の知識を持つのも頷ける」
「レヴィ、知っているのか?」
「直接見た訳じゃないけど、どうやらお母様はそこを気に入ったみたいで、彼らも神代大戦で魔王軍に大きく貢献したそうよ」
「いかにも。ご先祖様に火急の時に援軍を派遣すると仰っていました」
「その火急の時が今だと?」
「左様」
ふむ……つまり昔手を貸したから今度は私達に手を貸せっと。実に理にかなった話だけど、幾つか辻褄が合わない点がある。まず着物の女性ことクレナイは援軍を求める。となると最初に思いつく理由は何かと戦うのが妥当。だけどそれは大罪悪魔であるレヴィを求める程の強さを持つ敵。魔王軍に活躍した猛者達でさえも勝てない敵……考えられるのはフェニックスと同格か、それ以上の実力を持つ存在。果たしてレヴィ一人が戦力に加わったところで戦力差を覆るのか?
次に考えるのは何処かの国との戦だけど……極東の秘境と呼ばれる場所に攻め入れる国は流石に考えにくい。じゃあ逆に他国に攻め入れるのか?初代魔王と親しい仲を築き上げたからその魂がある大罪悪魔の封印の解放を目論んでいる可能性もあるが……流石に情報が足りなさ過ぎてロクな結論を出せないな。
「お前たちの事情を説明できるか?」
「詳細は明かせぬが……内戦で御座います」
「……つまりは謀反を企む者達の殲滅、もしくは駆除が目的なのか?」
「然り。出来れば謀反人共の真意を突き止めたい所存で御座います」
「でもそれならレヴィの力を借りる必要は無いじゃないか?どう考えても過剰戦力にしか……」
「いいえ。彼らはレヴィ殿と同じく、大罪悪魔を従っております」