第百五十八話
さて、念の為にセツの容態の確認も済ませたし、そろそろ本題のベルフェゴールの封印を解くか。件の封印はまぁ間違いなくこの地下空間の真ん中にある祭壇なのだろう。派手且つ精巧な彫刻が施された六本の石柱に囲まれた白亜の祭壇。その上に何重もの鎖に縛られた漆黒の箱が置かれた。
あれだけフェニックスが暴れても傷一つ付けていないのは流石初代魔王を倒せる偉業を成し遂げた勇者一行の封印ってことか。フェニックスの攻撃の巻き添えになっていないのはありがたい。でも、その頑丈さ故、もう一つの問題が生じる。
「そもそも封印って、どうやって解くんだ?」
「「「はい?」」」
「いや、よく考えたら俺は封印を解く方法を知らないんだ」
「何を言ってるの?私の封印を解いたのはマスターじゃない?」
「違うよ」
「へ?」
「ああ、正確には俺がディメンション・ウォーカーを倒したら封印が勝手に消えたんだ」
「初耳なんですけど!?」
実は『塔』の攻略が始まった頃、俺は二つほど、封印を解く方法を考えた。一つ目はレヴィの時の再現。あの時は封印の番人の立ち位置だったディメンション・ウォーカーを倒したから封印は解けた。だから『なら同じポジションの敵を倒したらベルフェゴールの封印も解ける』という案が脳に過ったが、ここの番人は不死身のフェニックスであることを思えだした途端に断念した。
そしてもう一つの方法は封印そのものを強引に壊す。封印されたベルフェゴールに傷付けてしまう恐れがある手段は出来れば選ばれたくないから道中に封印を解くヒントらしきものを探していた。でもここの封印は様々な理由で命を絶つことが出来ない大罪悪魔を人々から隔離するための処置であって、ゲームではない。折角施した封印を解く方法を残すバカは居ない。ましてや当の封印がある場所に残す筈はない。
「なぁ、イリア。フェニックスの首輪みたいに上書ききるのか?」
「うーん、どうだろう?正直未知数ね……あの首輪に仕込まれた魔法式の大凡の構造は事前に把握しているからな。まぁ、やれることはやってみる。レイはその間に魔力の回復でもしろ。私が封印を解けたとしても実際に契約を交わすのはレイだからな」
「了解。じゃあ俺は邪魔にならないようにセツの所で待っているよ」
それを言い残して、俺とレヴィは祭壇を後にした。フェニックスをイリアの所に居るのは些かの不安は有るのは否めないけど、ここはイリアを信じるしかない。俺は与えられた役目を全うすることだけを専念すればいい。あとは契約を交わす際に魔眼の暴走でも抑制するぐらいのことしか出来ない。我ながら光景出来る事が少な過ぎてちょっと寂しいかも……
「あら、レイさん。ベルフェゴールさんの封印はどうしたのです?」
未だに目覚めていないセツの看病をしているイジスは不思議な表情で戻ってきた俺とレヴィを迎えた。一通りに問題の説明を終わらせたけど、どうやらイジスが抱く疑問はまだ解消していないみたいだ。
「レイさんは封印を解けたことは無いと言ってますけど、私とイリアさんの封印はレイさんが解いたじゃないですか?」
「うーん、イリアの場合はあいつ自身が封印を解いたみたいだし、イジスの場合は封印そのもの勝手に消えた感じだから何とも言えないなぁ」
「本当にマスターは何もやっていないの?封印が勝手に消える筈は無い。きっとマスターが気付いていないだけで、マスターが当時取った行動が封印を解く鍵になっていたんだ」
確かに、レヴィの言葉も一理がある。封印が勝手に消えるのであれば封印の意味が無い。自動ドアみたいに、人が近付いたら封印を解く仕組みでもあるまいし。仮にも神や勇者の封印だろう。他の人が封印を見つけ出す事を考量していない筈がない。となると、やはり俺の行動ga封印を解く鍵になっているのか?
「とは言え、イジスの時はただ水晶に触れただけで……」
「それだっ!その時に魔力とかを流し込んでいなかったの?」
「その時はまだ魔力を上手く扱えないから何とも」
「正解よ、レヴィ」
「!?」
突然に俺の真後ろからイリアの声が聞こえて、思わずドキッとした。ねぇ!お前らは何回俺を驚かせたるつもりなんだ!いい加減勘弁してくれ!その内ショック死するぞ!
「何故かは分からないけれど、イジスの封印はレイの魔力に反応した」
俺が考えている事を読めるというのに、イリアはそれを無視して話の続きを口にした。ほぼ毎回実体化するか説明をする時に俺の真後ろからなのはもはや貴女の趣味ですかね、イリアさん?
「……反応が面白いから、ついついやりたくなる」
「今のは答えるんだ」
「コホン。兎に角封印の大半は無力化した。後はレヴィの言う通り、レイが魔力を上手く魔力を流し込むだけ」
「何で最後までやらないんだ?」
「はぁ……どうせお前はこの先でも封印された大罪悪魔達の封印を解くつもりでしょう?なら今で慣らせることで後々便利になる」
「えっ、そうなの?」
ああ、なるほど。つもりこれはその為の練習って訳か。しっかし、この事はまだ誰にでも話した事は無いのに……一体いつから知ったんだろう?そして真っ先にこの話題に食い付いたのは驚いた顔をしたレヴィであった。
「まぁ、そのつもりだけど……嫌だったか?」
「いいえ!私達は人間で言う姉妹です、嫌がる筈がない。だた……私達は魔王の魂を待つ者ですよ?人類にとっては抹殺の対象ですよ?マスターにはそんな私達を解放するメリットはな――」
「レヴィは家族と再会できる」
レヴィの言葉を被せるように、食い気味に言葉を口にした。時折にメリット重視する行動を取ることは否めないけど、俺は自分へのメリットよりも仲間達の幸福を選ぶ。
「レヴィは今度こそ家族と共に笑って生きる未来が見れる。それ以上のメリットはあるのか?」
「っ!?」
「それに、セツの復讐を手伝う事を選んだ時からこの世界の人間を敵に回すことが確定されていたことだ。敵対する理由が今更一つや二つ増えたぐらいで大差はない。まぁ、レヴィがどうしても嫌なら――」
「そ、その……妹をよろしくお願いします、マスター!」
ちょっとレヴィをからかうつもりで呟いた一言だけど、顔を真っ赤にして、慌ててに答える彼女の顔を見て思わず軽くふき出した。
「ああ、任せろ」