第十六話
「……あれ、ここは?」
目を開けた場所はモノクロームな空間だった。いや、よく見ると周りに沢山の木々が生えてる。
「これは霧か?」
そう、ここは強いて言えば『霧に隠された森』と言った方が妥当かな。俺は一応周りに歩き始めた。普段は森に迷子に成ったら、下手に動かない方が良いと言われたけど、今の状況は迷子どころか5メートル前の物すら見えるか見えないかの曖昧な状態にいる。
「そういや、今まで俺は一体何を……!!!そうだった。確かイリアと一緒にイジスさんを…ネクトフィリスは!? ……いや、待ってよ。まさかあれは全部俺がゲームのやり過ぎで変な夢を見てて、今は現実に起きろうと言う状態か!」
「んな訳あるか!」
「!?」
状況分析でつい独り言を始めた俺の背後から荒い声が聞こえた。急いで振り向く、ある人影が俺の後ろに立った。その人影は徐々に俺の方に近づいた。ようやく顔が見える近さまで近づいた人影は全身鎧を着た人だった。
「君がレイ君だね?俺を救ってくれて、ありがとう」
「ん?何処かにあったけ?」
「ああ、こんな姿出会えたのは初めてか。俺だよ、俺。ネクトフィリスだ」
「へ?マジ?」
「マジだ。君が戦ったのは俺の戦闘モードみたいな姿だ」
「は、はぁ?それで、何でネクトフィリスは俺に感謝するんだ?寧ろ怒るべきじゃないか」
「なんで?」
「だって俺は杭を抜かせたと言うのに……その、殺したから」
「はは、そんな事を気にしているのか。気にすんなって、俺はあれで良いんだ。俺の脳はあの杭にやられた瞬間でズタズタになった。数分後ならまだ助かるかもな。でもあれからもう百年以上の年月が経たからな~しかも、イジスの姉さんとイリアの姉さんも巻き込まれた」
「え!?それ、どういう事?」
「おや、イリアの姉さんから聞いてねぇのか。なら直接姉さんから聞いた方が良い。でも、あまり話したくないからね、聞いてもそう簡単に言えないと思うよ」
「……」
「何だその顔は?もしかして、嫉妬か?」
「ち、違う!」
「おうおう。照れてるじゃないか。心配するな、俺は姉さんたちと添おういう関係じゃないからな。ははは」
陽気なネクトフィリス。でもその笑い声は何処か寂しいような気がする。その笑えが止まった瞬間、ネクトフィリスは今まで見た事ない真剣な顔で俺を見つめる。
「数百年ぶりに人と喋った。最後に話せる人君みたいな人で良かった、ありがとう。それとレイ君、君をここに呼んだ目的は、俺の力を君にくれると思ってる」
「はい?」
「まぁまぁ、最後まで話を聞け。知っている通り、俺はもう死んだ。今ここで君と会えるのは俺と君が次元の狭間で戦ったお陰だ。俺は殺され、君は魔力枯渇で意識を失った。そんな俺達だからこそ、ここで会える」
「そう言えばここは一体?」
「ああ、世間で言う生と死の境界線みたいな場所だ。魔力枯渇した人なら大体ここら辺で魔力が回復するまで彷徨う事が多い。でも目を覚めたままに入るのは初耳だ。もしかして、君は一度死んだことが有る?まっ、ある訳ないか。兎も角、ここはこんな場所だから俺の能力を君に渡せることも可能だ」
「本当に良いの?」
「何回も繰り返させるな。ほら、手を出して」
俺はネクトフィリスの言う通りに右手を差し出した。すると、ネクトフィリスは彼の手を乗せた。直後、何が熱い魔力的なモノが俺の手を経由し、体内に入った。その流れは一分も続かなかった。
「これでよし。具体的な内容はもう既に、君の脳内に入れた。現実に戻った後で確認しな。俺もそろそろ行かないと」
未練を果たしたように、ネクトフィリスの体は段々光の粒子になった。
「あっ、もう一つ!」
「何だ」
「イリア達に会わないの?」
「もう会ったよ。君が最後だ。……くたばるなよ、レイ」
「ああ、ありがとう」
「姉さん達を頼んだぜ」
その一言を言い残し、ネクトフィリスの姿が完全に消えた。少し寂しいと悲しい雰囲気だけが残った。目蓋が徐々に重くなった俺もゆっくりと目と閉じた。
ここの姉さんは〝ねえさん〟では無く、〝あねさん〟です。