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異世界無双ハーレム物語  作者: 時野ゼロ
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第百五十六話

【レヴィの視点】


『――やった!』


 マスターが発動した新たな魔法、≪死黙の(ネイヒルム・)絶界(コンフィーネ)≫は見事にフェニックスの身体を切断した。しかしその魔法の発動はマスターにそれなりの負担を負っているようです。魔法を発動する直後に私を握る力が上がって、発動の瞬間に魔力の大半を失ったのは何よりの証拠。


 そしてフェニックスの身体の断面から金属の輪みたいの物体がその姿を見せた。イリアさんが言うに、その首輪こそが元凶らしい。それを奪えばこの窮地から脱出できる。それを知るマスターは当然のように、宙にいる輪へ駆けつけた。でも、マスターが伸ばした左手が重力に逆らえず、落ちていく金属の輪に触れることはできなかった……


「――!」

「マスター!」


 輪との距離とマスター現在の高度なら本来もう一歩、足場で跳躍する必要がある。しかしマスターはそうしなかった。気づけば少し前屈みの状態で硬直して、徐々に深淵へ落ちていた。しかも私が何度も念話で呼び掛けてもマスターが返事しなかった。


 これは異常事態である事を知り、すぐさまに地下空間の壁から一つの氷柱を生やしながら擬人化のスキルを使用してマスターの身体を支えた。残り僅かな魔力で氷の釣り針を生成し、深淵に落ちる首輪に引っ掛けて、無事に回収する事に成功した。


「こんな輪が元凶、ね?普通の金属ではないのは確定だけど……兎に角イリアさんが戻るまではセツちゃんの所に戻れないね」


 さて、改めて状況を確認しよう。私とマスターは深淵の真上に壁から生やした氷柱の上にいて、マスターの奮闘のお陰でフェニックスを一時的に退けた。身体が両断されたフェニックスは深淵に落ちて、その体内にある、マスターとイリアさんが首輪と呼ぶ金属の輪も回収できた。フェニックスもこの輪に操られた話もしているから多分これを取り戻そうとしないと思うけれど……こんな簡単に無力化できるのはにわかに信じがたい。最悪の場合、マスターを守りながら不安定な足場(氷柱)の上での戦闘になる。


「早く戻ってくださいね、イリアさん……」

「呼んだか?」

「うわっ!?」


 マスターは意識を失い、イジスさんはセツちゃんの守りに徹しいて、私に残された魔力も決して多いと呼べない。この状態で再度転生したフェニックスの襲撃を受けたら勝算は皆無。戦闘はどうしてでも避けたい、そして確実に戦闘を回避できる方法はいくつか存在する。が、それらは全部、この輪を干渉しなければならない。言うまでもなく、それらはイリアさんの能力が必要不可欠。彼女が輪の解析に時間が掛かるのは知っている。それでも、淡い期待と祈りの意を込めて不意に呟いた一言に返事が聞こえた。


 予想外の返事が聞こえて思わず驚きの声を上げた私は慌てて後ろに振り向かえた。するとそこは恰も当たり前のように立っているイリアさんの姿があった。


「貴方ね……解析終わったなら言ってよね」

「言える前に私を呼んだのはお前だろ……兎に角、こっちは約束通りに首輪の分析を終わらせた」

「それはよかった。例の輪ならここにあるわ」


 意識を失ったマスターに肩を借りている状態で握っている金属色の輪をイリアさんに渡した。これで再びフェニックスの襲来を懸念せずに済むけど、まだ安心できる状況になっていない。


「マスターはフェニックスを両断した後に意識が……」

「ああ、それは単なる魔眼の使い過ぎだ」

「……知っているんだ」

「解析に集中するだけで、完全に外界から遮断する訳じゃない。万が一の事態を備え、いつでも行動できるよう、レイの視界情報を共有している」

「な、なるほど……」


 流石はイリアさんね。彼女とマスターが言う輪の解析はそれの無力化ではなく、破壊するのを目標としている。そして彼女の口調を察するに、この輪は相当高位で複雑な術式が込まれているみたい。なのに、彼女はマスターの視界を共有しながらこの短時間内に輪の解析を終わらせたのは魔眼のお陰なのかな?


「さて、そろそろこれを壊すか……」


 自分の掌の上に置かれた輪を睨んで淡々と魔力をそれに集め始めたイリア。すると、輪の表面を蔓延るように無数の文字が浮かべた。見た事のない文字列は薄い紫色に光っているし、何だか脈打ちしているようにも見えるだけど……これ、本当に大丈夫?


「ッ!?まずいぞ、イリアさん!フェニックスはもう転生した!」


 私がイリアさんに警告を口にした直後、まるでこの時を待ってました!と言わんばかりのタイミングで私の前、つまりイリアさんの背後に現れた!


「レぺーラ――」


 イリアさんが輪を破壊するまでの時間稼ぎを目的とした魔法を発動しようとしたけど、私が魔法を唱え終える前にイリアさんが輪を持っていない右手を上げて、発動を中断させた。私が疑問を口にするより先に、彼女は転生して深淵の底から舞い戻ったフェニックスに語りかけた。


「ねぇ、フェニックス?貴様を操っている首輪は現に私が持っている。即ちこれを壊せば貴様を自由にさせることも、転生できずに殺せることも可能よ?」

「なんの真似だ、天の瞳」

「えっと……どういう事なの、イリアさん?」

「ん?フェニックスを転生できずに殺せるってこと?」

「ええ、そんなことができるの?」

「さっき首輪を手にした時に知った情報なんだけど。どうやらこの首輪は直接にフェニックスの魂とリンクしているみたい。肉体(?)が死んでも魂さえ無事ならフェニックスは転生できる。ならその魂とリンクしている首輪を通じてフェニックスを殺すのは造作もない」

「な、なるほど……なら早く殺して、ここから――」

「いいや」


 私が言いたい事を予想できたイリアさんは即座に否定的な意見を口にした。彼女の判断に疑問を持った私の顔を見て、「悪魔」以外の比喩が浮かべない程の笑みを零した。ねぇイリアさん……大罪悪魔の私より元天使である貴方の方がよっぽど悪魔っぽいのは何故だ?


「さて、話を戻すが……フェニックス、貴様に一つの提案がある。無論、それを承諾するか否かは貴様の自由だ」

「…………」

「だけど、操られたとはいえ、貴様はレイとセツ、レヴィに危害を加えた。貴様の魂にアクセスできる事は貴様の知識や能力、自由、外見、性格等……文字通り貴様の全てを支配した。そして残念ながら私はレイ程優しくない。それらの情報を知った上での提案だ。忠告だ、貴様はまだ生物でいられたいのであれば承諾をお勧めする」


 ああ……うん。悪魔ですね、イリアさんは。


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