第十五話
「ほら。俺はこっちだ、ネクトフィリス!」
ネクトフィリスの注意をイリア達が居る所から遠ざける為、俺はさりげなくデカイ楔一本を引き抜き、起きろうとするネクトフィリスの頭の横に落ちれるよう、わざとずらしてた。
――ゴァァァァ!
やっと起きたネクトフィリスは凄く怒った目線俺を睨んだ、らしい。何せネクトフィリスは目が骨のフルフェイスの兜で見えないから。
「よし、このままイリア達から離れろ!」
三度ネクトフィリスの足元までダッシュした俺はイリア達から遠く、そして多く楔が刺さった場所までネクトフィリスを誘った。イリアの補助が無くても段々と強化魔法を掛ける部位とタイミングを掴んできた。
俺の作戦は出来るだけ長期戦に持って行く。戦闘が長引く分、俺への疲労の蓄積も増える。でもこれが俺が考えられる、一番時間を稼げる方法だ。ネクトフィリスの基本な攻撃パターンはその力と鎧の方さを見た目によらないスピードでほぼほぼ一撃必殺の攻撃を素早く放つこと。時々腕や足に刃を生やして、攻撃範囲を伸ばす事もある。
攻撃は大体上方向から来るから、俺は降って来る拳を楔で受け止めた。加え、攻撃が着弾する瞬間のみ全身に強化魔法を掛けた。イリアの≪思考加速≫による援護がない今、迂闊にネクトフィリスと距離を置くことが出来ない。かといって、さっきみたいに紙一重で攻撃を躱しつつ、反撃を仕掛けることもできない。勿論攻撃を諸に受ける事も出来ない。故に俺は楔でネクトフィリスの手足の攻撃パリ―し、またはその軌道を逸らした。
――ゴォォォ!
「ちッ……な!?」
雄叫びらしき声を放ったネクトフィリスは折れた柱の瓦礫を砲弾の様に投げた。ネクトフィリスの鎧はそこら辺の瓦礫より固いから特に問題は無い。けど、≪先読み≫のスキルを持つ俺は看破の魔眼と合わせて、何とかネクトフィリス筋肉の動きを見て驚いた。
放り出された岩の砲弾を柱の物陰の後ろに避けた瞬間、ネクトフィリスは投げた岩をさっきまで俺が居た場所を殴った。その衝撃で岩は木っ端微塵になり、尖った霰と化し、その場所を粉々の蜂の巣に変えた。
「危ねェ。そのお陰で俺を見失ったが、イリア達の所に戻らないといいんだが……くっ」
二つのスキルを同時に使ったか、それともあまりの情報量が一気に流れ飛んだことで頭痛が起きた。転移される時ほどじゃないが、相当痛い。
「頭痛なんて今は良いや。先に……ん?」
俺を見失って、探すのを諦めたか別の所を探すのか分からないけど、今俺が隠れる場所に背を向け、イリア達の所でもない場所に歩こうとした。今の状態ならその杭を抜け出せると確信した俺は物陰から出て、≪圧縮強化≫で空中に足場を作り、その背中から僅かにはみ出した杭まで駆け上がった。
「ウオォォォォ!」
強化魔法を右腕に掛けて、渾身の一撃がネクトフィリスに刺さった杭に炸裂!外れそうでも外れない状態で刺さった杭はようやく外れた。
――ドーン!
重い音と共に、杭は床に落ちた。
「よし!これなら理性が――」
ゴァァァァ!
「――戻らない!?しまっ」
杭が抜けかれた事にも関わらず、右腕を構えた状態で振り向くネクトフィリスの次の行動は≪先読み≫のスキルが無くとも分かる。魔力がほぼ空っぽの俺に、ネクトフィリスの攻撃を防ぐ術は、無い!目を閉じて、歯を食い絞って腕でガードしようと構えたが、衝撃は来なかった。
『無茶しないって、散々言ったでしょう!』
『イリア?イジスさんは?』
『もう無事よ。万全の状態とは言えないけど。はぁ~お仕置きは後にして。レイ、そのままネクトフィリスの頭を攻撃して!』
『でも、俺にはもう魔力残量が…』
『心配するな。私を信じて』
『……分かった』
時間の流れが遅い世界で最後の魔力を空気の足場として使った。魔力が空になった瞬間は気絶しそうなほどの脱力感が襲いかかる。
「三日間連続でイベントの全クリを勝ち取った俺の精神力を舐めるなぁ!」
何とか気絶しなくて済んだ。でも気を緩んだが、気絶しまいそうだ。無理矢理体を動かし、足場を蹴った。
「ウオォォォォ!」
雄叫びを上げて、殆ど自由落下の状態で拳を構えた。誰がどう考えようと、この攻撃が通る訳がない。でも、俺はイリアを、親友を助ける信念を信じる!次の瞬間、俺は暖かい何かに包まれた感触がした。その何かは俺を緑の光で守ろうとする意思を感じた。
落下する俺と止めようとするネクトフィリスは右手で薙ぎ払う。でも何故か俺に当たる寸前でその手を止めた。今はその原因を考える余裕は無い。俺はそのまま、呆気なくネクトフィリスの頭を貫いた。
「え?……くはっ!」
不思議の現象に困惑しつつ、俺は無慈悲な重力で地面に落とされた。流石にもう限界だ。俺はそのまま、意識を失った。意識を失う直前に分かった物は巨大なネクトフィリスが光の粒子になった事と俺の方に駆け付ける足音だけだ。