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異世界無双ハーレム物語  作者: 時野ゼロ
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第百三十七話

【第三者視点】


 まるで姿が魔法で消されたエルダーリッチが見えるかのように、一体目のエルダーリッチを仕留めたセツはすぐさま別の、何もない所へ走った。


「――チッ」


 でもセツに狙いを定められたエルダーリッチの本体も勿論その場で大人しく自分が殺されるのを待つ訳がない。何とかセツから逃げられようと、新たに幻影を生み出した。エルダーリッチは自分たちは何の方法で見つかったのが分からないから焦ってセツを脅威視した。


 しかし、当のセツは勿論エルダーリッチを視認できる筈もない。もしエルダーリッチ達が隠密性を保ちながらセツに設置された釘と魔糸を避けて移動したら簡単に逃げられる。が、あいつらは最初からレヴィにしか警戒してないため、急に仲間の一人が目の前で瞬殺された光景を目の当たりにして、冷静さを失った。それでも、奴らさっき居た場所から大分離れたみたいで、改めて釘を再設置しなければならないことで少し苛立って、舌打ちしたセツであった。


 が、彼女も慣れた手つきで魔糸を引っ張って、既に用済みの釘を回収してエルダーリッチの逃走先にばら撒いた。その内の魔糸一本を引っ張ることで一気に加速し、猛スピードで不可視なエルダーリッチの首元と思われる所を目掛けて、短剣を薙ぎ払った。セツが握る短剣が描く軌道の上に居するエルダーリッチの首を見事に刎ねた――


『右だ、セツ!』

「ッ!?」


――筈だった。


 同じ戦法は通じないと言わんばかりに、セツの攻撃がエルダーリッチの首元に到達する寸前、右側からもう一体のエルダーリッチが放った闇魔法の奇襲を受けた。レイの警告でそれをいち早く反応できたセツは空中で無理矢理自分の身体を捻って、その方向に予め設置した釘と繋ぐ魔糸を強く引っ張り、直径数メートルのボール状な闇魔法の軌道上に配置した。


 次の瞬間、魔糸と接触した闇魔法はまるで豆腐みたいに、綺麗に両断されて、霧散した。無事に奇襲を対処できたのは良いけど、そのせいで彼女は再び追っているエルダーリッチを見失った。


 セツが所持する魔糸はレイとレヴィが持つ腕輪に嵌めた空間魔法のマナクリスタルの中に収納されている。それは当然、少なからずレイやレヴィの魔力が混じっている。そしてその二人の魔力ならエルダーリッチ程度が使う魔力を容易に上回る。故に、彼らが放つ魔法を掻き消すぐらいは造作も無い。


「…………」 


 追っているエルダーリッチ(えもの)が逃げられたら、無理に追跡する必要は無く、新たに現れたエルダーリッチ(えもの)を狙えば良い。どの道、彼女はこの二体のエルダーリッチを倒す必要が有り、二体目のエルダーリッチは別に深手を追わせた訳も無く、このまま標的を変えても支障を生じないと判断したセツは素早く右側へ方向転換した。


 だが三体目のエルダーリッチは二体目ほど温厚ではないみたい。接近するセツに対して、距離を取りながら次々と闇魔法による攻撃を仕掛けた。


 襲いかかる闇魔法を最小限の動きで躱しつつ、エルダーリッチに接近することを試みたが、闇魔法で一直線での接近を許されない。何とかエルダーリッチの背後へ回り込みたいけど、もう一体のエルダーリッチの居場所が分からない以上、迂闊に動けない。セツが自ら距離を取って奇襲する戦い方も、視認できない相手に通用しない。かと言って、このまま持久戦に持ち込まれて見失ったら元も子もない。


「……仕方ない」


 何かを覚悟したセツは目の前に追っているエルダーリッチが居る範囲内の釘以外を全部回収した。本来であればそれらはセツが二体目のエルダーリッチの奇襲を備えた準備だが、攻撃されるか否かの不確定要素より、目の前の標的を仕留める方を優先した。


「――ッ!」


 回収した数十本の釘を一斉に前方へ投げた。その内の十本弱は正確に闇魔法の塊の中心を射抜いて、魔法を霧散させた。釘の運用を何回も見たエルダーリッチは一刻でも早くそれらから距離を置きたい。そしてセツが大量の釘を自分の周りにばら撒いたから警戒心を足元にいる多くの対象に割けたい気持ちから生じる焦りと、先程の一連の攻防でセツの実力を過小評価した。


――ガァアアア!


 いきなりエルダーリッチが苦痛の悲鳴を上げて、その場に跪いた。激痛の原因の左肩に視線を向けると、そこには釘が数本刺さっている。しかも刺さった場所を中心に凍り始めた。


 そう。そのエルダーリッチは釘を過大視し過ぎて、足元に注意し過ぎた(・・・・・・・・・)。だからセツの動きは勿論のこと、彼女がいつの間にか上へ釘を投げたのも分からない。


「ようやく……追い付けた……!」


 その声を聞いて、頭をその方向に振り向いたが、セツの姿を見る事はできなかった。何故ならセツはエルダーリッチが振り向いた直前にその頭蓋骨を砕けたからだ。


 残るエルダーリッチは一体のみ。だけど、セツはその最後の一体を見つけ出す為の釘は全部回収した。先程見える幻影も綺麗さっぱり消え、当のエルダーリッチも本体を見せる訳が無い。無暗に階層内を駆けて探し出す方法は無論却下……かと言って流石のセツには最後の一体を見つけ出す術はもう運よくエルダーリッチが魔糸と接触するだけ。だがエルダーリッチも恐らくその事を知っているから敢えて釘が無い場所に移動する。もう一度釘をばら撒いたとしてもそう上手く引っ掛からない。


 そんな術が尽きたセツが絞り出した作戦は――


「…………」


――直立不動する。


 敢えて自分から隙を見せて、攻撃を仕掛けたエルダーリッチにカウンターを入れる。それができなければせめてその位置を特定する。


…………


……



 だが、彼女がどれほど待っていても全く攻撃されていない。その間もセツは何とか匂いや音、魔力等でエルダーリッチが潜む居場所を見つけ出そうとしたが……その階層はゾンビの腐臭に満ちていて、エルダーリッチが使用する魔法はどうやら自分らが立てた音を消せるみたいで、魔力も当たり前の様に階層内に充満している。そんな手詰まりの状況でレヴィからの念話が届いた。


『エルダーリッチの居場所のヒントを教えようか?』

『……お願いします』

『うん!素直で素晴らしい!そうね……エルダーリッチは現在、私とマスターの所に向かっているね』

『なっ!?』


 レヴィの念話を聞いたセツは急いであの二人が居る場所に戻った。



「俺がやるか?」


 一方、セツとの念話を終えたレヴィと一緒に待機しているレイはそう提案した。が、レヴィは「ううん」と頭を横に振りながらその提案をあっさり却下された。


「だって、ほら――」


 彼女が口にした言葉を言い終える前に、セツが上空から彼女の前に降って来た。その着地と共に、何らかの骨が砕く音が聞こえた。


「――セツちゃんはもう着いたから」


 目の前に五メートル以内での出来事なのにレヴィは一切微動だにしていなかった。なにより彼女はとても上機嫌で降ってきた白狼族の少女に褒め言葉を掛けた。


「セツちゃん、ありがとう~!とても上出来ね!」


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