二周年記念SS 二人の休日
大分遅れましたが、新年あけましておめでとうございます!
これは現在進行中の本編の第百五話の時間軸で起こった出来事。主人公のレイが魔眼の制御を励んでいる際にレヴィとセツの買い物シーンを描いた一話です。
*第三者視点です
時刻は早朝の六時、東の空が明るくなり始めていた。魔眼の制御を習得するため、毎日訓練に使われた草原に行くレイと宿で別れたレヴィとセツは一度食堂へ向かえた。先ずはこの異邦の地の目標の品々を品質が保証されて、且つ格安で売っている店の情報収集。
「あら、今日は彼氏君がいないの?」
「もう~彼は私の彼じゃないって、何度も説明したでしょう?朝一でからかうのをやめてください、アンジェさん」
「へへ。いや~、君たちを見ると若い頃のアタイを思い出して、『青春だねぇ』って感じちゃう」
レヴィが少し赤面になってやや否定の言葉を述べた相手は現在レイ達が部屋を借りている宿屋の女将ことアンジェさん。彼女は夫と娘の三人でこの宿屋を経営しており、食堂で出している料理は殆どう彼女の手料理になっている。その料理は大変美味しく、レイ達も急用がない限りは三食を食堂で済ましている。
そんなレイ達をからかうことがほぼ日課になりつつある彼女が既に食堂に満喫している五、六人の客人に「君達もそう思わんかい?」っと、問いかけた。すると――
「おうよ!毎回いちゃつく現場でたっぷり眼福を得たぜ」
「こんな美しい女性を二人と仲がいいコツを伝習させたいね。いや~実に羨ましい限りだ」
――等々のアンジェさんの発言を賛成する声が上がった。
段々顔が赤くなり、視線を下へ向けるレヴィを代わりに、少々呆れたため息を漏らしながら件の客たちに話しかけた。
「皆さんはどこでポーションと食材を安く買える店を知っていますか?」
相変わらずレイ達の前とそれ以外の人の前のセツの人格が違い過ぎる。彼女曰く、それは長年逃亡生活で身に着けたスキルみたいなもので、生まれつきの目で多くの人の性格や仕草などを観察して彼女なりに一番疑われない振舞いを演じているとのことだ。
「嬢ちゃん達、どこかに行くのかい?」
「ええ、ちょっと用事があって……」
「それなら商人区の境に位置する店がお勧めだぜ」
「商人区の中心ではなくて、境……ですか?」
「まぁ……こう言っちゃ悪いけど、商人区の中心の店には確かにクオリティーが高い品が並んでいるがその値段も高い。逆に言えば競争が少ない所の店の方の値段が少し低いんだ」
二人の客人からそう教えてもらったセツは左手を顎に添えながら「なるほど……」と呟いた。ようやく復活したレヴィもセツとは別のテーブルの客人から目安の情報の聞き出し作業を始めた。
それから約3時間が経ち、ようやく目ぼしい店の情報を幾つかお揃えた二人はやや遅めな朝食を堪能した彼女らが最初に向かう店は宿屋から一番遠く、商人区の端に位置する冒険者や旅人向けの品々を専門に扱う『スーラ』という名の店だ。
「いらっしゃいませ。当店にはどんな御用でしょうか?」
食堂で得た情報を頼りに無事目的の店の前まで辿り着けた。店内に入った刹那、入口付近に位置するカウンターから一人の男性の店員が清々しく挨拶してきた。彼に軽く「どうも」と返したセツは次々に探している品をリストアップした。
「え~とですね……まずは長持ちする携帯食料に回復ポーション、汎用解毒ポーション――」
特にメモを取ることもなく、ただセツが口にしたに少し頷いただけの反応しか示せなかった。セツも特に気にする様子もなく、立て続けに10種類以上の品の名前を言い終えた。その直後、例の店員さんがちょっと心配気な眼差しでセツとレヴィを見詰めた。
「あの数の品はそれなりの値段になりますけど……ご予算の方は……」
「構いません。銀貨30枚以下で全集類10個ずつ。足りるよね?」
店員さんの疑問に対して短く、且つ冷たく返事したレヴィ。何故か彼女の口調から僅かな苛立ちを見せた。本能的に彼女の機嫌を斜める原因は触れていけないモノと悟り、速やかに彼女らの注文を了承した。
「は、はい!直ちにっ」
それを言い残して小走りで店の奥へ消えていた。去り際に近くに同じユニフォームを纏っているもう一人の女性に「すぐに戻る、カウンターは任せた」と指示を出して、会計所であるカウンターを無人にさせない。
「どうした?」
レヴィの心境の変化を察知したセツがいち早く、小声で訊ねた。これまでセツが彼女とと一緒に行動することは多々あったけど、それでも彼女の機嫌を損ねる理由に見当がつかない。件の店員が聞こえない距離まで離れたことを確認して、セツの耳元でその答えを呟いた。
「あの人の他人を見下ろす態度が気に食わないの。昔の事を思い出せる……」
ここでレヴィが言う「昔の事」は恐らく彼女が封印される前の事。それを何となく勘づいたセツもそれに追求することを止めた。そして、セツが注文した物を取りに行った男の店員さんを待っている際、代わりに来たもう一人の店員がレヴィ達に話しかけた。
「貴女たちって、冒険者?」
「そうだけど……どうして?」
「いやぁ、スーラは基本物を多く買うお客様がいない限りは倉庫から取り出す必要がないのです」
少し困惑の表情を見せたセツに、店員さんが優しくその質問の根拠を説明した。今度はその説明を聞いたレヴィが悪戯っ子みたいな笑みを浮かべて店員さんに聞き返した。
「物を多く買えただけで冒険者と判断するのは些か安直過ぎません?私達が商人だった可能性もありますのよ?」
「少なくとも私は物を買う時まで帯剣する商人は見たことありません」
「なるほどね。それで、私たちが冒険者である事を知ってどうするの?」
「ぜ、是非冒険譚と聞かせてほしいですっ!」
「は、はい?」
興奮を抑えられないのか、急に声を上げてレヴィに猛スピードで接近する店員さん。彼女の挙動で流石のレヴィも引いて、壁まで後退りした。それでも店員さんの進撃が止まないのでやむを得ずレヴィが彼女の肩を抑えた。
「一先ず落ち着こう、ね?」
「あっ、申し訳ございません……実は私、祖父が元冒険者で昔からその祖父から色んな冒険譚を聞かされて、冒険者という職業に憧れていました。でも私は弱いから冒険者には成れなくって……」
「それで他の冒険者から話を?」
「うん……で、でも!?話したくない事が有ったら――」
冒険者は常に危険を伴う仕事。その仕事関係で友人や家族を失った者も少なくはない。興奮のあまり、ついタブーに近い話題を持ち出したことを悟り、店員さんのテンションが一気に下がった。店員さんの反応を見て、思わずお互いの顔を見つめあうセツのレヴィ。何らかの意思疎通ができたのか、二人とも同時刻に口元が緩んでしまった。
「いいよ、どうせあの店員が倉庫から注文した物を持ち出すまで暇ですし、話せる部分だけで良ければ」
「良いの!?是非お願いします!」
~
それから数時間が過ぎた。最初の30分はスーラで女性店員さんにこれまでの冒険譚を語っていた。流石にレイは異世界からやって来た者やレヴィは大罪悪魔であること、セツの過去などは話せなかったけど、それでも怪しまれなかったのは彼女らの努力を物語っている。
そしてそれらを話すのに欠けない要素があって、それがレイの存在はどうしても隠せないので、話し終わった直後にその店員さんからものすごい勢いで彼女らとレイの関係を問い詰めた。何とか正体をバレずに誤魔化したが、注文した品を受け取って支払いし終える時に「次会ったら是非彼との進展を聞かせてください!」という謎の予約を入れた。
スーラを後にしたレヴィとセツは次々と宿屋の食堂で得た情報が示した店を回った。戦利品を空間魔法が仕込まれた腕輪の中に収納して、棒に刺した何らかの肉が数本入った紙袋を片手に、二人で商人区の中心辺りの広場にあるベンチに座り、夕日に茜色に染めたリルハート帝國の街並みを眺めていた。
「ん~今日は結構の数の店を回ったね」
「……疲れた」
「ふふふ、たまにはいいんじゃない?二人だけの休日?みたいな感じで結構新鮮で案外楽しかったよ」
右手で木の棒を掴み、それに刺している肉片を齧って欠伸しながらリラックスした口調でそう言いだしたレヴィに返事した。周りに彼女達の会話を聞き取れる者がいないため、セツも演技せずに普段の喋り方に戻った。
「そう言えば、セツちゃんは最初の店でそこの店員にこれまでの出来事を話したこと、まだ覚えているの?」
「はい……何か?」
「前々から思っていたけど、セツちゃんはマスターの事をどう思っているの?」
「?」
「だから、その…………好きなの?」
「……どうして?」
「セツちゃんは復讐が目的でしょう?そして私たちはあくまでセツちゃんの復讐を手伝う、言わば協力関係みたいなもの。セツちゃんが私達の事を様付けする必要もないし、ましてやマスターを『ご主人様』と呼ぶ必要もないでしょう?」
「安心して……彼にそんな思いは無い。彼は強くて……優しい。普通に出会えたら……レヴィ様がいう感情を抱く……かもしれない。でも今の私は……復讐が全て。恋は……要らない感情」
「セツちゃん……」
「だから私は……彼のそばに仕える……従者。復讐を成し遂げる日まで。レヴィ様は?ご主人様が……好き?」
「……うん。マスターは大罪悪魔以外で私の手を取って、受け入れた。漆黒の世界から私を引っ張り出した、戦争の記憶が殆どの私に世界の美しさと人の温もりを教えたマスターは家族以外の私の宝」
「そっか……」
夕日のせいなのか、仄かに赤く染めてレヴィの顔をセツが優しい微笑みを浮かべながら覗き込んだ。自分の顔がセツに覗き込まれた事を気づいたレヴィはパっとベンチから勢いよく立ち上がり――
「ほ、ほらもうすぐマスターが帰ってくる時間だ!早く宿屋に戻ろう!」
――と言いながら小走りで宿屋の方向へ向かえた。
そんな彼女の後姿を見守っているかのように数秒後でベンチを去るセツの口から「ふふふ」という笑い声が零したことは誰も知る術は無かった。
「異世界無双ハーレム物語」が無事、二周年を迎えた!これはいつも応援している皆さんのお陰です。皆さんへの感謝の気持ちを込めて、この記念SSを書いて貰いました。
これからも応援よろしくお願いします!