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異世界無双ハーレム物語  作者: 時野ゼロ
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第百二十一話

 十分未満の激戦の末、勝ち残ったのはレヴィであった。ほんの短い戦いでこの空間は既に万遍創痍になっていた。床は分厚い氷覆われ、壁は所々大きく抉られた挙句に空気中には肺を凍てつく程の冷気を帯びたダイヤモンドダストが漂っている。


 ようやくゴーレム軍団の魔力源のムラサメを倒せたら暫くは安全にいられると思ったのに……危うくレヴィの津波に飲まれたり、ムラサメの攻撃の余波で飛ばされたゴーレムたちに潰されそうになったり……結局ムラサメはレヴィが引き受ける形になったが、残りのゴーレム軍団の相手をしている俺とセツも油断したら普通に命が幾らあっても足りない気がしてきた。


「レヴィ……?」


 ムラサメの敗北を物語るように再び一切の動きを止めたゴーレム軍団を掻き分けて、レヴィの所まで進んだ。てっきり昔の仇敵に勝利したから喜んでいると思いきや、何だか難しそうな表情を浮かべながら氷柱で地面に釘付けされたムラサメを見詰めていた。


「イリアさん、少し力を貸してもらえる?」

『構わないが、何をすればいい?』

「こいつの、ムラサメの記憶の内容を私に教えて」

『……分かった』

『そんな事まで出来るのかよ、お前は?』

『いいや。普通の生き物なら無理だけど、彼の場合は脳が無いから記憶を魔力として保存している。その保存した魔力を解読できれば彼の記憶も読み取れる、簡単な仕組みだ』


 ……またイリアがさらっと凄い事を言い出したなぁ。少なくとも千年分の記憶を魔力として保管するムラサメも凄いけど、それを近くのコンビニに行くみたいな軽いノリでその魔力を解読可能宣言をするイリアの凄さに思わず絶句した。 


 静かに俺の隣で実体化したイリアは釘付けられたムラサメの頭部に右手を伸ばした。正面から自分の頭に手を伸ばすイリアの姿を目の当たりにしたムラサメは――


「この魔力……」


――早速イリアの魔力に反応した。


 まぁ、普通に考えるば神代大戦で活躍したイリアとムラサメはお互いの事を知らなくとも、元天使であるイリアの魔力を知らない筈がない。


 確か神代大戦は魔王が率いる魔王軍と神の使者である勇者一行とその協力者達との戦い。でもその戦争に異議を唱えたイリアとイジスは反逆者として封印された。ムラサメは何処まで知っているかは分からないが、少なくともイリアは天使である事は気付いているからそんな驚愕した反応を見せた。


「何故天使の貴女がっ――」

「黙って」


 彼の言葉を自分の声で遮って、瞼を閉じてムラサメのおでこに当たる部分に触れる右手からスキル発動の印たる淡い光を帯びてた。自分の中に侵入するイリアに対抗しているのか、さっきまで喋っていたムラサメは完全に黙り込んだ。


 沈黙の間がしばらく続いて、イリアの手の光は次第にその輝きを失い、やがて元の状態に戻った。


「勝手ニ俺ノ記憶ヲ漁リヤガッテ……!」

「その割にあんまり抵抗しなかったには何故?」

「ウルセッ!俺ハ内部カラノ攻撃ヘノ対処法ヲ持ッテイナイ!」

「……そう言う事にしておこう。ところで、レヴィ。貴女が求める物が見付かった」

「そうか……それで?」


 あれ?何だか記憶領域がイリアに侵入されたムラサメから全く敵意を感じられなかった。イリアが記憶を漁るついでに性格をも変えたのは考えにくいし……う~ん、ちょっと気になるけど、流石に今は後回しにしよう。


「レヴィの推測通り、『(ここ)』のモンスターは封印されたベルフェゴールの魔力によって生み出された産物。そしてその制御装置がムラサメだ」

「やはりそうだったのか。それにしても、よくあれ程忌み嫌った大罪悪魔(わたしたち)の魔力を使うのね」

「主様の命であれば……!」

「……そうね。貴様はそういうキャラだったね」


 ムラサメの返答を聞いて、レヴィがやれやれと首を左右に振りながら呆れた口調で受け入れた。その直後、何かを思い出したレヴィが「あっ、そう言えば……」っと小さく呟いて、一瞬で呆れ顔から真剣な真顔で再びムラサメと向き合えた。


「何故、本気を出さなかったの?」

「…………」

「何度も私達を追い詰めた貴様がこんな簡単に破られると思えない。一体、何を考えているの?」


 レヴィの質問に対して、沈黙を保つムラサメ。彼が返答する気の有無とは関係なしに更なる質問を投げかけた。思考を巡らせてから約一、二分後、ムラサメがようやく声を発した。


「主カラハ『塔』デノ魔力循環ダケヲ頼マレタ。貴様ラ大罪悪魔ヲ狩ルトイウ命令ハ受ケテイナイ……ット言イタイトコロダガ、ココ最近ノ数百年ノ間ニ疑問ヲ思ッタ。何故、人間(ヒト)ハ争ウト?」

「……ムラサメ」

「コノ中ニ居テモ少ナカラズ外ノ情報ヲ手ニ入レル方法ガアッタ。魔王ガイナイ間デモ人間(ヒト)ハ戦イヲ止メレナカッタ。魔王トイウ共闘シザルエナイ敵ヲ失ッテ、今度ハ別ノ国、マタハ他種族トノ戦争ヲ始メル」


 迷いが吹き切れたように長々と語り始めたムラサメ。それは長年『塔』にいる時間で模索始めた疑問、自身の主でさえも言えなかった疑問を語った。皮肉にもそれを語る相手はかつて背中を預けたの戦友でもなく、生みの親の勇者一行でもなく……昔に戦場で何度も刃を交わった仇敵のレヴィであった。イリア達も彼の心境を察して、何も言わずに彼の話を黙々と聞き入れた。


「戦ウ為ニ作ラレタ俺ガ言ウノモオカシイナ話ダケド、戦カラハ何モ生ミ出セナイノニ、タダ両方ノ兵士ガ、民ガ傷付キ、憎シミトイウ名ノ疫病ヲ世界中ニバラ撒く。ソンナ行為ヲ何故人間(ヒト)ハ知ッテテ尚繰リ返スノカ。ソレヲ考エタラ昔ニ『魔王ハ全種族ガ共ニ暮ラセルヲ望ム』ットノ噂ヲ思イ出シタ。アノ時ハタダノ世迷言ダト笑ッタガ、今トナッテハ心底ノ何処カニソノ噂ガ真実ダト信シテ、ソレヲ願ウヨウニナッタ」


 話を一旦止めて、僅かにその頭を俺を向う様に少し動かした。そのまま俺の顔を見詰めて、一拍を置いてから話の続きを口にした。


「レイ……ト言ッタナ、オ主ノ名前。ソコノ女カラ聞イタ。ネクトフィリスヲ助ケテ、アイツガオ主ニ力ヲ託サレタジャナイカ?」

「助けた……と言うよりかは、あの時の俺は必死で、ただネクトフィリスさんの胸に刺さった杭を抜いただけだ。結局、ネクトフィリスさんの命を救われなかった……」

「イイヤ、永遠ニ続ク時間ヲ止メタ。守リタイ者ヲ守レズ、一人一人ガ命ヲ落トス中デ自分ダケガ生キ残ッタ。自我ヲ失イ、永遠ノ孤独カラオ主ガ彼ヲ解放シタ。ソレハ救イト呼バズニ何ト呼ブ?……ダカラ、親友(ネクトフィリス)ガオ主ヲ信シタヨウニ、俺モオ主ニ賭ケル。本来相交エナイ二ツノ種族カラ信頼サレタオ主ナラ……イツカ全種族ガ平穏ニ暮ラセル世界ヲ齎スト……」

「……ッ!」


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