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異世界無双ハーレム物語  作者: 時野ゼロ
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第百十六話

「くっ……はぁ……はぁ……」

「セツっ!」


 何とかギガント・バジリスクを倒せて、連戦と強敵との戦いでの緊迫感から解放されたセツは荒い息を立てながらその場に座り込んだ。彼女の元へ駆け込んで、速やかに≪ディメンション・アクセス≫で回復ポーションを二、三本を取り出した。


 ギガント・バジリスク戦の最後ら辺で見せた一連の動作、特に件の振り子運動を見せたセツは一見大した怪我を負っていないように見えるが、実際≪看破の魔眼≫を通すと、彼女は普通の人間なら即死せずとも、暫くは再起不能なほどの怪我を負っていた。左肩の脱臼、肋骨四本と大腿骨の骨折及び打撲傷と切り傷多数……


 これはもはや単純に獣人族の頑丈さを理由で結論付けするのも無理があった。復讐の為に強くなりたい彼女の願望と大量のアドレナリンの分泌が有ったからこそ無理矢理自分の身体能力の限界を超えることが出来た。そして現在、彼女はその反動で苦しんでいる。


 アドレナリンの大量分泌は痛みを和らげることが出来ても、実際に負った怪我は治っていない。その状態で激戦を繰り広げたセツの傷は悪化する一方だ。


 痛みで悲鳴を上げて、もしくは気絶するのもおかしくないなのに……セツは歯を噛み締めることで消えかける意識を繋ぎ止めた。恐らくセツは内心で恐れているんだ。自分が意識を失ったら次に目覚める時は何時間、何日、下手したら何ヶ月後も分からない。彼女の性格上、強くなるために時間を費やするのは構わないけど、それが自分自身のせいで何の成果も得られず、ただ時間を無駄にする事は何より避けたい筈。だがそれは彼女が尋常じゃない程の痛みを感じ続けなければならない事を意味する。


 いくら回復ポーションは怪我を回復する薬だが、それはあくまで身体の自己治癒能力にブーストを掛けただけ。時間の巻き戻しみたいな奇跡的な効果は無い。それに、回復ポーションの多用はなるべく避けたい。魔力の回復ポーションは兎も角、普通の傷を癒すポーションの過剰摂取はやがてその治癒能力が劣れ、それを基づくポーションの効果も薄れる。


「…………」


 そっとセツを石柱にもたれて座る姿勢にさせて、回復ポーションを彼女の口に流し込んだ。咽ないように、ゆっくりと試験管みたいな容器に入った回復ポーションを二本空にした。


 暫くすると、痛みで歪んだセツの顔も次第に和らげた。脱臼した左肩は荒治療で何とかできるが、流石に骨折は無視できない。回復ポーションの効果を持っても少なくとも数時間は掛かる。俺達が持っているポーションより一段と効果が優れているポーションは一応存在するが、俺達みたいな一端の冒険者に売る訳が無い。仮に売っているとしても、恐らく値段も高く、多くは買えないだろう。隣のレヴィに一瞥して、彼女が軽く頷いたことを確認した後、俺は密かに魔法を発動した。


「はぁ……はぁ………はぁ…………」


 魔法の発動から約一分が過ぎた。セツの荒々しい呼吸もやがて安定になり、気付けばすやすやと寝息を立てた。


「悪いなセツ、手荒な手段を使って……お前の傷は浅くない、時間はたっぷりある。だから、今は少し休め」 


 ぼそっと呟きながら、俺は寝てたセツを床に寝かした。流石に怪我人、ましてや女性をこんな硬い床に寝かせるにいささかな抵抗が有った。魔法を掛けたお詫びも兼ねて、セツの頭を俺の太ももの上に置いた。


 セツ以外は殆ど戦闘に参加していないが、折角の機会だ。これからまだ今みたいに休める機会があるか分からな以上、休める時は思い切り休んだ方が良い。隣に腰かけたレヴィも優しく俺の太ももの上で熟睡するセツの頭を優しく撫でた。





――神教国ラスミス・教会内部


「……こいつもダメか」


 白亜色の壁に囲まれた部屋の中央には一人の男が立っている。彼は右手で鷲掴みもう一人の男を興味を失ったかのように、ぽいっと後方の屍の山へ投げ捨てた。そんな彼を目の前にして、修道服を身に纏った女性は祈祷する仕草を見せる。


 男の行動を伺った修道女は無機質に言葉を発した。


「ご安心を。直ちに予備を準備します」

「否定。解放された厄災は一つ、神降し(ヘブン・コーリング)は三人。十分だ」

「左様ですか。神降し(ヘブン・コーリング)に成功したお三方は何処に?」

「否定。伝達役の貴様に関係のない話。弁えよ」

「申し訳ありません」

「肯定。下がって良い。休む」

「畏まりました」


 頭を深く下げて、修道女は黙々と部屋を後にした。そのまま、テクテクと足音を廊下に響かせて歩いた彼女の目の前に一人初老の男、デメトリウスが視界に入った。


「具合悪そうね。儀式を見るの初めてだしね」

「私に構わないでください」

「そうはいかん。貴女は希代の逸材、貴女をサポートするのが我々の役割」

「…………」

「儀式で命を落とした者が気がかりか?」

「っ!?そのような事は――」

「良い。貴女はゆっくり部屋で休めな、報告は私が代わりにするから」

「……ありがとうございます」


 小声でそう呟いた修道女はデメトリウスと別れた。その場に残された彼は踵を返し、修道女とは別の方向へ歩み出した。十数歩を歩いたデメトリウスは他の誰も居ない空間に喋りかけた。


「数は三人。居場所は不明、がこの国にはもういない」


 デメトリウスがそう発言した次の瞬間、彼の足元の影が激しく歪み始めた。ものの数秒後、歪んだ影は何も無かったように元通りに戻った。


「三人か……今回は中々いい人材を見付けたもんだな……」


 影の異変が消え、再度歩き始めたデメトリウスはそう呟いた。


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