第百九話
「さてと――」
意外とすんなりにラトスの町に入れた事でこの町の警備を多少な不安を抱くが、俺達にとっては好都合だ。この町の知名度で出入りの人数が多いからてっきり数時間、少なくとも一時間弱を待つ必要があると予想した。
「――これからどうする?このままダンジョンに入るか?それとも今日はゆっくりラトスの町を観光する?」
「どっちでもいいじゃない?マスターが決めてください」
「私も……構わない」
……ダメだ、こりゃ。この二人は全く当てに成らない。一応彼女らのこの答えは予想した上で聞いたので……まっ、案の定頼りにはなれなかった。
『イリア達は?』
『先ずはそのダンジョンの辺りに行ってみませんか?ダンジョンに入る為の手続きが必要かもせれません』
『だな。その道中に観光や買い物をしたり、攻略の時間もその時で決めればいい』
『名案だっ……!』
流石は我がチームの頭脳とも言えるイリアと彼女の親友イジス。計画を立てる時は彼女らと相談した方が良い。イリアとイジスの念話はレヴィ達にも聞こえてるから、彼女達からも異論が無いみたいだ。
『じゃ……ひとまずはダンジョンに向かうか?』
『うん!』『……はい』
こうして、念話で二人の元気な返事を受けて、俺達はイリアの案内を頼りに目的のダンジョンまで足を運んだ。
今こうして人混みをかき分けて町の中心部分へ進んでいる事に従い、道端に並ぶ屋台や店の数と種類、そして並ぶ品々のクオリティーも段々と上がっている。確かにこの町の規模は首都のと比べならないが、人口密度と賑やかさなら首都に劣らない。今でも左右から客寄せの掛け声が聞こえてくる。尚、やはりここはダンジョンを目的とした人達が築き上げた町と言うべきか、売っている品々の種類の殆どはダンジョン攻略に役立てる物に傾いている。
無数に建てられた店舗の中に並ばれた商品から幾つか見繕ってたけど、どれも首都に売られた物より値段が高く、中にはその倍の値段に売られた物もある。
ダンジョンに入る事は自分の命を危険に曝け出すと等しい。『命を懸けた冒険に勝利し、生き残った者には望んだ力を手に入れる。』これはラトスの町の情報を集める時にとある冒険者の先輩に聞かされた言葉であり、それを信念として、ダンジョンを挑む。当然このダンジョンは本来、大罪悪魔の一人を封印する為の場所。その封印を解かさないように、色々と仕掛けを施した。でも大罪悪魔の存在は歴史から消されてたせいで、無謀な挑戦者が続出。
怪我人の数が多くと、それを直す技術とリソースの要求も増える。故にここは金を儲けたい人達にとっては最高な場所。……そりゃ値段も高い訳だ。
「……やはりここも高いな」
「そうですね~。一週間前で買い占めたのは正解ね。……うわっ!?この解毒薬、首都の三倍よ」
ふらりと一軒ポーション売りの屋台に近付いた。魔眼と通して、ここで売ってるポーション類の品質は相当高い。が、その値段も思わずその言葉を呟いた。隣のレヴィも商品の値段に対する驚きを隠せなかったみたい。
レヴィが言葉を発した直後、俺はチラっと店主の顔を覗いた。どうやら俺達の会話を聞いてなかった。まぁ……ここは人通りが多く、俺達も結構小声で喋ったから聞こえないのも当然だ。ふっと後ろにいるセツの方を振り向くと、彼女は前方の何かを見詰めていた。
「どうした、セツ?」
「……あれ、ダンジョンの入り口じゃない?」
彼女が指差した場所に視線を移った。そこはダンジョンの塔から少し離れた広場に設置された広さ十メートルも無い、小さな建物。その周囲には腰に剣をさして、灰色の軍服を纏った男性が五人立っている。彼らの周りには冒険者らしき人物が二、三グループ待機しているようだ。
「行ってみようか?」
レヴィを先頭に、俺達は軍服五人組に近付き、その内の一人に声をかけた。
「あのぉ……ちょっといいですか?」
「はい。何か?」
「ダンジョンについて訊きたい事がありまして……」
レヴィに話し掛けられた軍服の男の説明を要約すると……この町の者はこのダンジョンの事を『塔』と呼んでいて、特殊なケース以外は基本出入れ自由らしい。尚、『塔』の内部で起きた出来事は全部自行責任であり、彼ら警備隊は一切干渉しない。彼曰く、警備隊の仕事は大きく二つに分かれていて、それはダンジョン周りの治安維持とダンジョンの情報を民衆に伝うこと。
そしてここは首都と違って、『塔』の中に得た戦利品を換金する事は出来ない。確かに、首都には依頼で狩ったモンスターの種類や数を証拠と共に報告することでギルドから依頼達成の報酬金を貰える。でも逆に言えば、ここは一々ダンジョン内で何をやって、何を手に入れた事を報告する必要は無い。しかもこの『塔』ゲームみたく、上のフロアに登るに従い、モンスターも強くなる仕組みになっている。因みに現時点での最高到達フロアは第67層らしい。
『彼の情報から推測すると、ベルフェゴールは塔の最上階に封印されるには間違いでしょう』
『しかも第67層まで登った者が居てもまだ最上階じゃないとか……これは長丁場なりそうだ』
『今回はセツさんの訓練もあるですし、焦らしに行きましょう』
『賛成。急いでダンジョンを攻略して、肝心のセツが成長できなかったら本末転倒だ』
ここで一旦念話を終わらせて、もう一度隣にいるセツを訊ねた。
「なぁ、セツ。今日からダンジョンに入るのか、それとも明日まで待つか?」
「わからご主人様と――」
「いや、お前が決めろ。元々はお前の訓練の為に来たんだ、お前が決めるのは当然だ」
「…………」
俺の言葉聞いたセツは難しそうな顔で黙り込んだ。そんな彼女を見守ること数分間、彼女黙々と悩んだ末に出した答えを口にする。
「……今が、良い」
「分かった。んじゃ、行こうか?」
「うん!」
こうして、俺達は軽く軍服の者と軽く分かれるの挨拶を交わした後、ベルフェゴールが封印された『塔』へ入った。