第十一話
遅くなってすみません
「先手必勝!」
開戦の狼煙が上がった瞬間、俺はネクトフィリスの足元へダッシュ!
ゴァァァァ!
低い雄叫びをあげたネクトフィリスは素早く、その右腕を振り下ろした。俺は咄嗟に強化魔法でダッシュの速度を上げることでその拳を避けた。
「早いっ――」
ゴォォン
鈍い音が神殿内に響いた。
「――そして固い!」
(こんな相手はどうやって倒すんだ?)
強化魔法を掛けた俺の攻撃は効いてる様子は無い。それどころか、ネクトフィリスの左足を殴った俺の拳は少し痺れた。
右足に右腕、左腕、胸、腹。強化魔法を運用し、周りの柱を使って立体的な動きでネクトフィリスの各部位を試しに攻撃を入れた。それらの部位を攻撃した時に幾つもの危ない場面があった。時に胸や腹を部分を攻撃した時には危なかった。けど、何とか軽傷を受けただけで済んだ。流石に頭までは届けなかった。結果で言うと、俺の攻撃は全然ネクトフィリスに通じない。
一応、ネクトフィリスを無視し、先にイジスを助けるとも考えたけど……杭は強化魔法を掛けた状態の俺の腕力で殴ったどころでビクッともしない。イジスが入った檻は馬鹿みたいに丈夫な鎖に繋がってた。しかも、ネクトフィリスは何故か俺をイジスに近づいた時だけ、過剰に守りに入る傾向があった。
「となると…狙うべき所は鎧の薄い所である、関節!しまっ――」
ネクトフィリスの攻略法をようやく考えた俺は油断し、集中力が緩んだ。その僅かの隙を見逃さず、ネクトフィリスは拳を振った。あまりの速さで、俺がそれに気付いた時はもう目の前まで拳が迫って来ていた。咄嗟に腕をクロスして防御しようと構えたが、この攻撃をまともに受けたら、俺は確実に死ぬだろう。が、これを防げるとは思えない。
だが、この瞬間に奇跡が起きた。俺に迫って来る白い壁のスピードが落ちた。いや、正確で言うと、まるで周りの時間の流れが遅くなった気分だ。これなら、タイミングを合わせれる。衝撃の瞬間に……全魔力解放!≪圧縮強化≫!
これが戦闘中での魔力切れを防ぐ為の俺の答えだ。魔法って言うモノは使った魔力量で威力を左右できるとは限らない。まぁ、≪強化魔法≫みたいな魔法の類いは左右されるけど。でも、戦闘開始から戦闘終了までずっと全開の状態で掛け続けたら、魔力が無限か馬鹿みたいに多い者じゃ無ければ、一分も待たずに魔力が空っぽになる。
だから俺は使用する時(今の場合は衝撃を受ける瞬間)に魔法を掛ける。必要な面積を最小限まで絞って、その一瞬だけ魔力を使う。これなら、魔力が長持ちする。今まで、特にチェイサー・ハウンドの群れを突破するときに何回か試したけど、上手くいかなかった。何故か時間を遅く感じる今なら、絶対成功させる。いや、成功しなければ俺は死ぬ。
今回攻撃を受ける面積は広い。先ずは直接に攻撃を受ける両腕に集中。次は衝撃を受ける為、脳、肋骨、肺、心臓。さらに後ろに吹き飛ばすから、背骨を中心に背中全体。後は戦闘継続の為、一応下半身以外の腱と靭帯も掛けた。
――ドーン!
白い壁と激突した瞬間、俺は凄まじい速度で後ろに吹き飛ばされた。後ろ側に並んだ柱数本が折れた。強化魔法を掛けてて良かった。
「く…」
空中で態勢を立て直そうとしたが、その前にネクトフィリスは既に俺の後ろに回った。振り向く時間も無く、俺は本能的に数回の強化魔法を掛けた。
――パリン!パリン!パリン!……
複数枚のガラスが割れた音が鳴った後、俺は右斜めの方向に吹き飛ばされた。
ドォォォ―――ン!
「レイッ!」