第百話
第四章、スタート!
短めです。ご了承ください
【セツの視点】
吹雪が止まない雪山。昼間なのに太陽光は積雲によって遮断され、視界は十メートルも達していない。それでも、目の前が突如と現れた眩しい光に覆われた。その光に対し、全身の細胞が危険信号を送り出した。しかし私の両足が恐怖に支配され、全く力が入れない。
これから死ぬという事実を知って、私は光から、死への恐怖から目を逸らした。しかし――
五秒……
十秒……
三十秒……
――三十秒も経ったのに、予想された痛みは感じられない。好奇心に勝てず、私は恐る恐ると瞼を開いた。
「父さん……?」
「なにボーっとしている!?オレが奴らを足止めする内に早く逃げろ!」
「嫌っ!父さんも一緒に逃げて!」
「馬鹿な事を言うな!オレと一緒に逃げたらすぐに追い付くだろうが!何日か時間を稼いでやるから早く■■をここから連れ出せ、スノーウルフ!」
……嫌だ。父さんを失いたくない。私も一緒に戦うから……一緒に家に帰って、昔みたいに幸せな送るから……この村から出ても良いから……だから、私を一人にしないで!死なないで、父さん!
「――!?」
心の底から叫んで、喚いて……虚しさを胸いっぱいで瞼を開いた。……また同じ夢か。もうこの夢を見るのは何度目だろう。そう言えば、最近はレヴィ様の訓練の疲労で夢を見る頻度も減ったね。前は毎日の様に、同じ夢を……父さんと別れた瞬間の夢を見ていた。
「セツ、大丈夫?」
本来は少し離れた机の隣に置かれていた椅子の上に寝ているレイがベッドの横から心配そうに私の顔を覗き込んだ。本当、人好しだね……私達の関係利害一致の協力者。お互いの目的の為に協力し合う関係なのに――
「……大丈夫。ちょっと悪夢を見ただけ」
「本当に?凄く魘されたんだけど……」
「気にしないで。明日も訓練あるから……早く寝よう?」
――なのにどうしてそんな悲しい顔を私に向けれる?何で私に、こうまでも優しくくれるの?
レイと目を合わせない為、私は再び瞼を閉じ、寝たふりをした。
ねぇ、父さん。何で一緒に逃げないの?何で私達は逃げないといけないの?何で私も一緒に戦ってくれないの?
私は無力、父さんと一緒に居ると足手まといになる。それぐらいは百も承知な事だ。でも何故、私を生かしてくれたの?何故一緒に死なせてくれないの……!?
その夜、私は毛布で声を殺して密かに泣いた。
~
【第三者視点】
「数日前、大罪悪魔の一人の封印が何者かによって解放された」
玉座の前に白衣と緋袴の巫女装束を身に纏った一人の少女が立っていた。神々しい異彩を放つ彼女は玉座に座る『帝』に首を垂れながら黙々と言葉を述べた。
「ほんまか!?」
「はい、わしにも夜烏衆から似たような報告を受けた」
驚きで玉座から身を乗り出した『帝』の心境を鎮まるかの如く、巫女の傍に控える白髪の老人が続けに報告した。
「ふむ……その封印を解いた者は気になってますね。どなたか調べてくれへんか?」
「拙者に任せてくれませんか?」
名乗り出したのは血色の着物を着た黒髪の女性であった。彼女が名乗った直後、その場に居る者がざわついた。
「朱鬼の娘か……よかろう、お主に託す。お主の目で大罪悪魔を解放した者の本質を見極めよう」
「はっ、必ずや」