第九十九話
ギルドマスター室を後にした俺達は一階の裏にある超大型倉庫から巨人の死体を≪ディメンション・アクセス≫の中に収納した。てっきり色んな手続きをやらないと貰えないと思ったんだけど、どうやらギルドマスターが事前にギルドの職人達に俺の事を伝えたらしいくって、何の問題も無く倉庫内に入れた。因みにセツが巨人の死体を見た瞬間、「この大きさで三割……?」っと諦め気味に呟いた。
と言う訳で、俺達は現在この町で一番規模大きい且つ冒険者の皆からの信頼も最も高い鍛冶屋へ向かう途中である。
「ところで、何でレヴィとセツもギルドマスターと合ってから何も喋らないの?」
「えーっと……」
『それは私が説明する』
何だかレヴィが答える事に躊躇っていると思いきや、念話でイリアが彼女に代わって答えた。
『ギルドマスターから貰ったマナクリスタルには空間魔法以外の魔法が仕込まれている』
『なっ!?それってまさか――』
『そう。音声を記録、及びリンクされたマナクリスタルに転送する魔法式だ。でもこの時代の人間は念話の事は知らないみたいで幸いね。あっ、因みにレイ以外の全員はこの事を話した』
そうか……この魔法式が仕込んだからあんな出鱈目の話も通れたか。寧ろそれは俺の警戒を解く為の演技かも知れないな。……全く、随分と信用されていないな。でもま、これはこれで安心するんだけどね。知れる悪いが有る方は全く真意が掴めない偽善よりマシだ。
「……俺への心配は分かっているけど。ほら、見ての通りだ。日常生活に支障はないさ、な?」
「うん!」
音声が拾えるよう、わざと声大きめでレヴィ達に話した。話の途中で彼女達に瞬くする事で仕込まれた魔法式の事を知った合図を伝えた。
さて、もうそろそろ目的の鍛冶屋に着く頃合いだな。でもその前に……折角貰った貴重なマナクリスタルだ、盗聴の魔法式が仕込まれたぐらいで捨てるなんて勿体ない。なら存分に使わせてもらうぞ。
そう考えた俺は早速マナクリスタルに魔力を流し込んだ。
~
「おっ、いらっしゃい!」
「マッカスさんおはよう」
俺がマナクリスタルに細工を施す内に歩いたらいつの間にか目的の鍛冶屋の前まで着いた。そして中から陽気なおっさんの声が聞こえた。この鍛冶屋は一応店としても活動している。入り口辺りは奥に生成された数々の武器や防具を並べて飾っている。そんな店の中で声がする方を覗いおたら、探していたマッカスっという名の禿げたおっさんが俺達を出迎えた。
「ん?何だ、坊やじゃねェか」
そう。実はセツと出会う前、ここに来た事が有る。その時は街中を目的も無く、適当に散歩した最中に見付けた場所だ。並べていた武具のクオリティが高く、ついつい店の中に入ってしまった。しかし、商品のクオリティが高い所以に値段のそこら辺の店より数段高かった。
当時俺は所持金が多く持たない上、レヴィやイジスがくれたパーカーが有るから他の防具にそれ程の興味が無かった。それでも俺はここの前を通る度に店の中に入って、良い掘り出し物を探していた。そのお陰でここの店員数人と知り合いになった。その内の一人が今出迎えてくれたおっさんのマッカスだ。
「実はこの娘に似合う武器が欲しんだ」
「坊やも中々やるじゃねェか。一人だった坊やが女二人を連れてきたなんて……坊やはどっかの貴族かい?」
「いいや、俺は紛れも無い平民出身の冒険者だ。そんな事より、獣人族が扱える武器は作れるか?」
「はっ!誰に訊いているか分かっているのか?俺達に掛かりゃ、どんな武器の注文だろうと作ってみせるよ!」
「それは頼もしいね。んじゃ、一番クオリティが高い奴を頼む」
「ふむ。そうさな……」
右手を顎に寄せて、考える仕草を見せてくるマッカス。まぁ、数多の素材や武器の種類からセツにぴったりの組み合わせを探すのは大変そうだな。何せ、人それぞれには各自の癖や戦闘スタイルがある。各々の要求に従って、武器の長さや重さ等の微調整も施して、その人の為だけの一品を作るのがこの店のモットーらしい。そのせいでオーダーメイドの武具にはとんでもない値段が付く。
脳内での試行錯誤が終えたのか、マッカスは俺の隣に居るセツに話し掛けた。
「君は力任せというより、スピードで敵を素早く倒す系の戦いが得意よね?」
「……よく分かりましたね」
「そりゃ、数え切れない程のお客さんが特注の武具を受けてきたんだ。これしきの事なら一度見るだけで分かる」
「でもスピード型とはいえ、獣人族の力に耐える素材はそうは居ないぜ?無難な鉄だと耐え切れなしな」
「なら巨人族の骨はどう?」
「巨人族かぁ……あんまり使った事は無いけど、多分それなりに良い武器は作れると思う。少なくとも今ウチに有る素材よりかは」
それは朗報だ。今セツが使っている武器は鉄製だからな、それより良い物が作れる確信が有るならギルドで巨人の死体を持ってきた甲斐が有った。
「どの部位が欲しい?」
「できれば牙や腕、もしくは指。この三つがあれば理想的だ。でもそう簡単に手に入れる――」
「はい、巨人の頭蓋骨と右腕」
それを言って、俺はギルドマスターから貰ったマナクリスタルをマッカスに渡した。それを受け取ったマッカス本人は一瞬驚いたけど、直ぐ俺の意図を理解したかのよう笑った。
「そう言えばつい先日にモンスターの大群が現れて、その中には巨人も居たって噂が有ったな。坊やが倒したのか?」
「まさか、俺一人じゃ無理だよ。でもそれなりに貢献したから、これはそのお礼」
「なるほど。その報酬で自分の女に新しい武器を買いに来たか」
「俺を茶化すなよ」
「ははは、気にすんな。そっちの嬢ちゃんは?」
「いいえ、私は結構です」
「そうかい。んじゃ、二週間後にまた来てくれ。その頃で多分出来上がれる筈だ」
「分かった。あ、そうだ。そのマナクリスタルを小さなアクセサリーにはめる事は出来るか?」
「それは出来るけど……?」
「じゃそれも頼む。多少容量が少なくても構わない、少なとも三個が欲しい」
「了解。支払いは二週間後だ」
「ああ、分かった」
さて、セツの新武器の注文が完了したし、ギルドマスターから貰ったマナクリスタルの処理の終わった。今日はゆっくり宿に休んで、明日からは新しい魔法の開発とレヴィ達による訓練の再開だな。モンスターの大群から結構な数のスキルや魔法を奪って来たから、今より多くの魔法の組み合わせが出来て、実に楽しみだ。
今日で第三章がお終り、次回からは第四章になります。
いや~、第三章は思ったより長かったなぁ。第四章も引く続き頑張ります!