第一話
「何だよ、これ!?何だよ、これ!?」
俺は走った。暗闇の中、何処から発光しているのか分からない微光をたよりにあいつ等から逃げた。今でも俺を殺そうとする狼に似たけど、俺が知る狼より身体が一回り、二回り大きい謎の生物。真っ赤な瞳を光らせながら凄まじい殺気を放っている。
「クソっ、あの扉を開くべきじゃ無かった!」
息切れしながらも、自分の愚かさを呪った……
~
俺の名前は逆崎 零。17歳。色々と事情があって、今は学校を休んで絶賛引きこもり中。
「ん~やっと終わった!」
俺はパソコンの前で大きな欠伸をした。今日はとあるネットゲームのイベントクエストの最終日。俺は三日間徹夜を続けようやくイベントクエストを全クリした。今回のイベントは歴代イベントの中でも一番難しい。それを全クリした後の俺は強烈な眠気に襲われた。
「もう11時か……ちょっとコンビニに行こうか」
パソコンの画面から視線を剝がして、壁掛け時計へ移った。明日の新イベントに備え、俺はコンビニで夕食を買う事を決めた。久しぶりとは言えないけど、二週間ぶりに家を出るからやや緊張する。一応パーカーを羽織って、夜の街に出た。勿論財布を忘れずに。
「ふぅ~やはり夜は冷えるな。パーカー着て正解だったね」
冷たい夜風が頬を掠る。時季的にはまだ夏の半ばなのに、今夜はやけに冷えるな。某動画投稿サイトやゲーム、アニメ等でも悪寒と寒気を感じる時は大体何らかの心霊現象が起きる前触れ。折角イベントクエストを全クリして気分が良い今心霊的なモノに出くわすのはごめんだ。決して、幽霊が怖い訳じゃないからな!
長年ぼっちだったからなのか分からないけど、俺は時々独り言を言う癖が有る。まぁ、別に良いんだけどさ。暫く歩いて、俺は近くの公園の自動販売機の前に着いた。
「…缶コーヒーでも買うか」
そう決めた俺は早速自販機で缶コーヒーを買い、それを開いて、ゆっくり中身を喉に通した。馴染みの味が喉を通る感触が俺の眠気を減らせた。
「それにしても、通りすがりの人がいないな。まだそんなに遅くになっていないのに……」
気付けばこの公園内は俺一人だけだ。時刻はまだ12時を回っていないのに、この静けさは異常だ。不思議を感じつつも、俺は特に気にせず近くのベンチに腰掛けた。寒い夜に熱い缶コーヒー、俺にとっては極楽の状況だ。
「な、何だ!?何かのドッキリか!?クッ、何だよこれ?頭が…割れそうだッ!」
そんな平穏を壊すことが起きた。足元が突然光り出した!驚く俺は周りに警戒しつつベンチから飛び降りた。
しかし、周りには誰も居なかった。もしこれが新手の強盗等なら何らかの物音が有る筈。でも、それが無かった。
誰かの悪戯かと疑った時、急な目眩と頭痛が俺を襲った。ゲームのし過ぎか?っと考えたが、すぐさまその発想を捨てた。それではこの光を説明できない。取り敢えず、ベンチに座ろうとふらつく足で何とかベンチに座りなおせた。しかし頭痛の勢いは増して来る一方で、謎の光も段々強くなりつつある。
「うわぁぁぁぁぁぁ!」
耐え切れない頭痛で頭を抱えた状態で俺は意識が遠くなって行く。意識が途切れる寸前、俺が見たのは深夜の公園の設備や樹々などが謎の光に飲み込まれた光景だった。