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ワンダーランド  作者: 一城洋子
7/11

女王と女帝

 翌日、月曜日。

 授業が終わること、学校に電話がかかってきた。美姫の父親からだった。

「二人とも、学校は終わったな? 迎えに行くから、すぐこっちへ来てほしい。警察から連絡があった。USBメモリの件についてだ」

 美姫と大貴が待っていると、美姫の父親が車で来た。助手席にはエリカもいる。

 ちなみにエリカは学校へ行かないので、父と一緒に会社へ行っていた。

「昨日有本という子から渡されたっていうUSBメモリ、あそこには証拠となるデータが入っていた。《エンプレス》須王メシアこそ偽造カードグループのリーダーで、偽造カードを考案した人物だった」

「やっぱりね」

 美姫も大貴も驚かなった。

「驚かないんだな」

「やり口が同じだから。あいつならやるだろうよ」

「そうか。とにかくあれにはどうやって偽造カードプログラムを作り出したかも書かれていた。《エンプレス》や有本君にはできない。そこでネット上で人材を探したらしい。使用したサイトやメールの記録も入っていた。今、警察がどこのだれか調べてる。データの中には手下の記録もあって、何人かはすでに調べがついたそうだ。緊急逮捕したらしい」

「早いね」

「偽造カードによる攻撃を受けた人がすでにいて、被害が出てるからな。警察も重く見てる。ただ……」

 父親が言いよどんだので、美姫が後を引き取った。

「須王メシアがリーダーとすると、須王家が圧力かけてくるだろうね」

「その通り」

 須王家の権力は依然としてある。昔同様握りつぶされる可能性があった。

「方法がないわけじゃないよ。私立小学校に通ってた時、もっと権力強い家の子に命令して怒り買ったらしい。その子の家に頼んで、捜査妨害やめてもらえば」

「やってくれるかなぁ?」

「もっと大物の政治家らしいんだよ。しかもライバル政党の。よりによってそんなうちの子を下僕にしようとしたことで、ヤバいと泡食って自主退学させたって。公表されて辞任させられるのを必死でくいとめたって」

「よく知ってるな」

「あたしはよく須王家に須王が今度はだれのなにを壊したとか、ケガさせて病院送りにしたとか言いに行ってたから。そのたび秘書……有本の父親が金包んで持ってってたからね。有本は須王が恐くて正直に報告できない、あたしならできるっていうんでありがたがられてたんだよ。その頃有本の父親が愚痴ってた」


有本は長いこと須王に虐げられてた。自分で証拠を警察に渡すことはできない。そこであたしに渡した。そうすれば『ワンダーランド』制作会社の手に渡る。連携してる警察にもみ消されず渡ると考えたんだろう。

 けど、その先で潰されたら意味がない。

 有本はバカじゃない。

 美姫は腕を組んだ。

 予想できたはずだ。もみ消されずにちゃんと捜査が行われるにはどうすればいいか。あたしが須王の私立時代のことを知ってて、こう言い出すのも計算してたと思う。

 計算通りに動いてやるのは嫌だけど、今は乗ってあげるよ。

 会社に着くと、すぎに対策チームの部屋へ急行した。

 美姫と大貴の母も待っていた。

「大体のことは聞いたわね? 今、こっちは警察の裏付けが取れたところで、対象プレイヤーのID即時停止と永久追放処分を決定したわ。刑事告発も辞さないつもりよ」

 美姫はうなずいて、

「了解。未成年もいるから、どこまでできるか疑問だけど」

「そこは問題ね。偽造カードを持ってても行使してないプレイヤーもいるし、責任を問えるかどうか……」

「あたしたちが引き続き囮やって、わざとそいつらが攻撃しやすいよう動こうか?」

「そうね。向こうも焦ってると思うわ。女王杯の終了が近いから。十二月三十一日夜十時の時点でポイント残高がトップのチームが優勝と決まってるの」

「あ、そうなんだ。終了時刻知らなかった」

「おいおい」

 大貴があきれている。

「いや、半分息王で参加したからさ」

「普段は夜十時までしかログインできない決まりになってる。深夜にゲームするのはよくないもの。だけどこの日だけは大みそかで女王杯が決定する瞬間ってこともあって、深夜零時まで可能よ。カウントダウンをみんなでやって、新年が始まると同時に優勝者のショーをやることになってる」

「へー、そうなんだー」

「ちゃんと把握しておきなさいよ」

 エリカもあきれ声を出す。

「おそらくほとんどのプレイヤーが勝負をかけてくるチャンスは二回。クリスマスと、最後ギリギリね。大勢が見てる肥田氏、投票する人も多い。だからまずクリスマスにわなを仕掛けたほうがいいと思うわ」

 クリスマスね。あと少しか。

 美姫の母はUSBメモリに入っていたデータの一部を見せた。実際のやりとりの分が載っている。

「《エンプレス》がクリスマスとイブに有力ペアへ襲撃をしようと指示している記録よ。あなたたちも対象に入ってる」

「予想通りと言うか。そこまでして優勝したいかね」

 あくどい手段で勝っても、それじゃ本当に勝ったことにはならないだろうに。

「《エンプレス》は未成年。罪には問えない可能性があるわ。もし心を入れ替えて計画を中止してくれるならこちらも考えるけど、もしこれからも他プレイヤーを攻撃したり、プログラムを改ざんして優勝したなら事実を公表し、優勝を取り消すわ」

「仕方ないね」

 さて、どんな罠を仕掛けるか。

 美姫はしばらく考えて、

「ねえ、昨日の襲撃の様子って公開されてる?」

「動画でってこと? してないわよ。全プレイヤーに偽造カードを使用するプレイヤーによる攻撃があった、対処したけど今後もあるかもしれないので注意してくださいって一斉連絡はしたけど」

「仮想空間内の映像は外部から自由に見られるよね? たくさんの人に見えるようにって。てことは……」

 美姫はささっとスマホで動画投稿サイトを検索した。

「やっぱり。その時のをコピーしてアップしてるのがいるわ」

「え?! ちょっと、『ワンダーランド』の映像を勝手にコピーしてアップするのはだめなんだけど!?」

 親たちがあわてて削除しようとしたのを美姫は止めた。

「ちょっと待って。これ、このままにしてくれる?」

「なんで?」

「イブまでまだ間がある。あとこれしかない、じゃなく、まだこれだけある、だよ。それまで何もせずってわけにはいかない。このことを隠すのも、隠ぺいだとたたかれるしね。だから公式から映像を出すんだ。こういうことをするプレイヤーは許さない、刑事告発も辞さないってね」

 大貴がうなずいて、

「なるほど。須王なら簡単にひっかかって、手下にバンバン襲撃させてくる。そこを捕まえるか」

「大々的に半偽造カードキャンペーンをしよう。実際襲撃されたプレイヤーにも強力してもらって、訴えるんだ。狙われたのは人気プレイヤーばかり、つまり彼らの発言力は強いでしょ。もちろんあたしたちも言う」

 エリカが心配そうに美姫を見あげた。

「危なくない?」

「囮になるって決めた時点で、危険は承知の上だよ。大体、暴力で人のカードを奪う連中は許せない」

 エリカがはっとした。

 美姫は集団で暴行され、カードを奪われるという経験をしている。重傷で、しばらくは入院生活だった。

 いまだにカードは戻らない。

 暴力を使う人間をだれよりも許せないのは美姫だった。

 だからこそ、囮になってもらったのではないか。

「それに、須王をのさばらせておくわけにはいかない」

 小学校時代のように。

 今度もあたしが止める。

 美姫は固く決意した。

「イブまでは毎日ショーをやって、地道に一味を捕まえていこう。で、イブのショーだけど、こんなのはどう?」

 美姫は計画を説明した。


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