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歌う風の森〜石の目〜

作者: ハナ
掲載日:2017/02/08

巡る四季世を、樹の香に乗せて。

緩む風、速む風、遠くへ。


世界でただ1人の、わたしと歩むあなたへ。



この世で一番美しいと言い放ったわたしに、天は罰を与えた。わたしの目を見たものを、石に変える呪いを。

わたしは美しい。誰よりも美しい。

でもわたしは、ひとり。


わたしは鏡を叩き割り、水辺から離れて暮らした。訪れるものも無く、光り輝くように美しい自らの手を手入れすることが楽しみの暮らし。しかし誰にも見られることのない美しさなど、何になろうか。

わたしは美しい。誰よりも美しい。

でもわたしは、ひとり。


わたしは部屋を暖かくし、質素な料理を作って食べ、清潔にして陽に干したかけものをかぶって眠る。優しいこの手が誰かを助けることは無く、内面の美しささえもはや無意味。

わたしは美しい。誰よりも美しい。

でもわたしは、ひとり。


ある朝家の前に子どもが捨てられていた。親が何を聞いてここに捨てたか知らない、だがここに捨てることに、子を捨てるかなしみよりも悪意を感じた。恐ろしい石の目の魔女が居る家、その前に捨て置くなど。

子は泣いた、泣いたはいいがわたしは困った。言葉の道理が分からぬものに、わたしの顔を見せずにもとの家に帰す方法はあるだろうか。自分を世捨て人と諦めず、仮面でも用意しておけば良かったと悩んだ。

しかしほどなくして分かった。その子の目は見えなかった。

捨て置かれた理由はさりとて、その子は石にならずにわたしの側にいる唯一の存在となった。

「しゃしゃ」

わたしの本当の名前は発音しにくいのか、子はしゃしゃ、しゃしゃとわたしを呼んだ。朝に夕に服の裾をつかんで付いて回り、危なっかしい手つきでご飯を食べた。わたしのそばで眠った。

わたしは美しい。誰よりも美しい。


しばらくして、この子の名前はラカと分かった。しゃしゃ、ラカ、という話し声が家に満ち、そして、徐々に笑い声があふれた。

ところで。

わたしは変わらずに美しかった。

ラカは青年になり、しかし変わらずわたしの後を追って日々を暮らした。

それでもわたしはまだ美しかった。そろそろ気づいても良かろう。天はわたしに不老も与えたのだ。誰も寄せ付けぬ目を与えておいて、不老。よほど腹に据えかねたと見える。

ああ

わたしは美しい。世界中の誰よりも。

美しさなど要らない。ただラカと年をとってしわくちゃになり動けなくなってそれからありがとうと死ねたらそれだけで


でなければ、ひとり。ラカを送り出したわたしは、また、ひとり。


ラカの目は回復しなかった。わたしが老いないということも、彼は生涯知らなかった。

それだけは良いことだったと言えよう。


一緒に暮らした森の端に、ラカを埋葬した。風が吹いて、あたり一帯の花びらを巻き込んで空に舞う。弔うような一面の花びらのなか、一つがわたしの視線にひっかかって石となって、吹き上がり、吹き上がり、そして、


明けかけた空の、星となる。

明けの空の一番明るい星に。ラカ。


ああ、

あんなにも美しい。


ラカ。



花は森に、星は空に。

木の上を見て、

あの子が笑っている。

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