しだれ柳(300文字小説)
遠い遠い昔。
人の子が、この地に移り住むよりも、ずっと昔。
そんな頃から、そのしだれ柳はこの地にそびえ立っておりました。
後にこの地に移り住み、町を建てた人々は、その姿を見て言ったそうです。
「彼女はこの町のお母さんだ」
悩み苦しんでいる時は、まるで友のようにそれに寄り添い、人の子が、胸を躍らせながら彼女の元を訪ねた時は、風に吹かれながら共に踊る。
それが、この町のお母さんでした。
きっと彼女からすれば、この地に生きる全ての生き物は、我が子同然で可愛かったのでしょう。
けれど、今ではもうそんな〝お母さん〟の姿を見ることはできません。
今はただ、過ぎ去っていった年月の重みを感じさせる大きな切り株が、残るのみです。




