1日目:傘を貸した女の子と待ってた男の子。
「茉莉、なにやってたの?」
「んっと……。隣のクラスの子が困ってたから、傘貸してあげたんだ。」
私、皇茉莉花は少し離れたところで待ってくれていた、結城蓮の元に駆け付けた。
「あー……。アイツ、柊だったけ。よく覚えてたな。茉莉、人のこと覚えんの苦手じゃん。」
「うん。前に美雪ちゃんが好きって言ってたから、覚えてたの。」
1年生の時の恋バナで、美雪ちゃんが好きって言ってた。
私は勝手に蓮のこと好きって片付けられたけど……。
まぁ、好きだけどさ。
友達の好きな人くらい覚えないとって思って、頑張って覚えたんだよねー。
まさか、話す機会が来るとは思わなかったけど。
「へー、陸奥の好きな奴か。アイツって、ミーハーだからなー。今頃は変わってそうだけどな。」
そう言って蓮は苦笑しながら、歩き始めた。
「え。ま、また覚えなおさないとなの?うぅ……。」
人のこと覚えんの苦手なのに……。
柊君のことだって、頑張ってやっと覚えたのに。
美雪ちゃんは確かに毎回聞く度に、好きな人変わってたけど。
「もう聞かなきゃ良いじゃん。ほら、雨が強くなる前に帰ろうぜ?」
そう言って蓮は、私の頭を優しく撫でた。
その蓮の言葉に、私は頷いた。
「……うん。そうだね。でも、美雪ちゃん急に恋バナしだすからなー。」
「ま、そのときは仕方ないな。俺も手伝ってやるからさ。とりあえず、今日は帰ってケーキ食おうぜ?」
人のこと覚えるときには、毎回蓮がその人のことを教えてくれる。
柊君を覚えるときにも、名前と顔は蓮に教えてもらったし。
私とは対照的に、蓮は人のことを覚えるのは得意みたい。
「え。ケーキって、蓮の手作り?」
「ん?おう。昨日作ったんだ。」
「やった!私、蓮の作るお菓子好きだよー。早く帰って、一緒に食べよ♪」
蓮はすっごく料理が上手で、私によくお菓子を作ってくれる。
そこらへんのお菓子屋さんより、私的には蓮のお菓子が一番美味しいって思ってる。
それに蓮は悪戯気に笑って、私をからかってきた。
「えー、お菓子だけ?」
「ち、違うよっ!蓮の料理は、全部好きだよ。」
私はからかってるって分かっていても、慌てて訂正した。
蓮は普通にお菓子以外の料理もすっごく上手。
学校に持っていくお弁当も、蓮と私で交代制で作っていってる。
ちなみに今日は蓮の番で、私が好きな甘い玉子焼きも入れてくれてて美味しかったなぁ。
「あははっ。分かってるよ。いつも美味しそうに食べてくれるしな。」
蓮はそう言って楽しそうに笑った。
それにつられて私も笑うと、急に蓮は思い付いたように話始めた。
「あ、今日は夜飯食ってく?茉莉が好きなスープ作る予定なんだけど。」
「え。本当?やった!食べる、食べる。」
「おっけー。じゃ、結菜さんにちゃんと連絡しとけよ?」
「うんっ。」
そう言って私は頷くと、ケータイを出してお母さんに早速電話をかけ始めた。
ちなみに結菜さんって言うのは、私のお母さんの名前。
「あ、お母さん?私、今日は蓮の家でご飯食べて帰るから。……うん、分かったっ。じゃーね。」
私が電話を切ると、すぐに蓮が聞いてきた。
「何だって?」
「分かったって。あ、今度は私の家にご飯食べに来てねって言ってたよー。」
「そっか。結菜さんの料理、楽しみだな。」
そう言って蓮は、笑った。
蓮は今独り暮らしだからなー、誰かに作ってもらう機会がなかなか無いんだろうな。
私くらいかな?私の家に食べに来るのは、たまにだし。
「うん。お母さんの料理は、美味しいからねっ。」
そう私も笑って言った。
そうして二人でたわいもない話をしながら、蓮の家に向かった。