オクタンⅡ
「酉島さん、また遊びに来ました」
ふと酉島は誰かに呼ばれた。
振り返って教室の入り口を見るとそこには西宮が立っていた。
かの、恋文を送ってきた彼女だ。あれから幾たびか交流を深め、今は酉島と西宮はよき友人となっている。
「よお、西宮」
普段通りに声をかける酉島。先の出来事を意に介さないその姿はまさにフレンドリーという言葉がよく似合う。
「ヒュー、ヒュー、お熱いこってすなあ」
しかし、意に介さないのは渡辺も同じである。他人の恋路は蜜の味である。
「黙ってろよマジンガーZ、スクワットしてろ」
「鉄人二十八号じゃねえのかよおおお!、ほっ、はっ、ほっ」
「渡辺さんもこんにちは」
笑顔で挨拶する西宮。
その屈託のない笑顔は
『結婚しよ』
という思いに駆られる男子生徒も少なからずいるだろう。少しばかり渡辺の心中には酉島に対する嫉妬の炎がくすぶる。
「こんにちは西宮さん、いつみてもホントに天使だなあ。いやあホントに傷ついた心が癒されたよ。それにしてもなんで西宮さんなんかがこんな朴念仁なんかを…」
「朴念仁とはなんだ朴念仁とは」
「あっ、いっけね!思わず本音が。ごめんね西宮さん今ちょっと取り込んでた最中でさ」
そのあと顔を紅潮させた西宮に渡辺が事情を説明した。
「それは、大変ですね。何かお手伝いすることはありませんか?」
「西宮さんマジンガーZにはアフロダイAというパートナーがいてね。必殺技はオッパ…」
渡辺はスパーンと教科書で酉島に叩かれた。
「うるさいお前はこれから解体行きだ。
ところで西宮、何かオクタンのこと知っていることとかないか?癖でも気づいたことでもなんでもいい」
「ええと奥谷先生のことですよね?…うーんと、そういえば奥谷先生は良く眼鏡を頭に乗っける癖がありますね。たまに黒板の字を書くときも眼鏡を上げたまま授業をしていますよ?」
「眼鏡を上にあげる癖に悪趣味な黄色の眼鏡、そして近視か…あとなにか足りないな」
「そういえば今日は烏丸がやたらと騒がれてましたね」
そういえば今日はやたら朝から烏丸が鳴いていたことを酉島は思い出した。朝の目覚めも悪い酉島もこればかりは耐えられなくて今日は五分程早く起きたのだった。
「そうだな、まあ動物は地震や異常なことには敏感だからな…ん…“異常”?…」
「そういえば、僕の家の池の鯉も今日は凄い飛び跳ねてたね。ほんとに怖いくらいの異常さだったよ……異常?そうかわかったよアッキー!事件は解決だ」
「まじかヨ」
「ははーん、聞きたいんだねアッキー僕の推理を」
「ふふふ、じゃあ僕の推理を御披露目しよう。
まずは冒頭からだ、何故オクタンは眼鏡を無くしたか?だが。恐らくオクタンはいつも通りに廊下を歩いていたんだ。それはいつものことなんだけど今回は頭に眼鏡を上げたままね。…そして、今回彼には“異常が起こった”
彼は軽い動悸を起こし窓に近づいたんだ。そして、気づかずに眼鏡を落としたんだよ下の草むらにね。恐らく茂みを探せば出てくる筈さ」
「じゃあ、探してくればいいんじゃないか?」
簡単でいてシンプルな意見を酉島が述べる。
「わかったよ探してくる」
それから渡辺は、下の草むらを探し回った。しかしどこにもあの悪趣味な眼鏡は当たらなかった。諦めきれず広範囲に渡り捜索の幅を広めてもいつになっても見つからない。
「……っかしーな、こんな筈じゃないんだけど…」
てんで、予想が外れた渡辺は考え込んでいた。この事件もそろそろ迷宮入りかと悔やんでいたその頃――
ご愛読ありがとうございます。
犯人は誰なのでしょうか?
犯人候補
A酉島 B西宮 C奥谷 Eその他
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