名探偵
――認識しているからこそ私がいる――
その時学校は夕時であった。
皆が学校から下校していく放課後、残っているのは汗水を流して部活動をしているものくらいである。
階段から下りているのは酉島明という高校二年生の男子生徒。
冴えない目、くるっとはねている髪型は何故かくしゃっとしたくなる衝動にかられる者が多いだろう。
ポケットに手を突っ込み教科書の入った鞄を肩に掛けながら降りていく。
夕日に照らされて影を作りながら一階に降りるとそこにいるのは屈託のない笑顔で話しかけてきた渡辺始と西野愛だった。
渡辺と西野は酉島の同級生である。
腐れ縁と言える程の長い付き合いの二人。渡辺は中肉中背でテニスをしていそうな爽やかな黒髪の男子である。
一方、西野は栗色の髪をしている少々キツい性格の女子で体系で言えば幼さが残る。
渡辺始が喋りだした。
「なあ、聞いてくれよアッキーさっき凄い勢いで女子が僕にぶつかって走っていったんだよ!」
つまらなそうに隣の西野が始に取り入る。
「どうでもいいけど人の事情を詮索するのは良くないよナベちゃん」
それを聞いてか聞かずか喋り続ける始。
「なんでか泣いてたんだよ!僕気になってさ。最近コナン・ドイルの小説読んだからだと思うだけどさー」
「そうか」
気にせず酉島明は下駄箱へ向かう。
「ちょっ、待ってくれよアッキー!無視しないでよ!」
可憐にスルーされた渡辺は少しムッとした表情を浮かべ酉島明に追いついていく。
そして、酉島明はガシッと腕を掴まれた。
普通であれば、振りほどいて終わりだろうが、渡辺始の狂犬の異名は伊達ではない。
もうこうなると、無理やり離すのは無駄だと判断した酉島明は深くため息をついた。
「で、なんだ始?」
「僕の推理を聞いて欲しいんだ」
「はいはい、どうぞ」
「なんだか軽いなあ、まあいいや。僕の知り得る情報ではねここの校舎では今日中は二階から四階までワックスがけで立ち入り禁止な筈なんだ。しっかりとカラーコーンにテーピングまでしてあるしね。なぜ彼女がこの校舎の立ち入り禁止区域にきたかが気になる!」
「推理ではない気もするが」
「名探偵はね観客がいるからこそ名探偵なのさ!」