リーダーと愉快な仲間達(崎浜秀)
明日は卒業式だ。
楽しかった高校生活も終わりを告げようとしていた。
「あ〜っ。お前等とも、明日でさよならか……」
トーンの低い声で金髪の男がそう言った。身長は175cm位で、ちょっぴり細身の男。耳にはピアスが幾つかぶら下がっている。いかにも、不良みたいな感じだ。
その男の周りには、数人の男が集まっているが、男と違い不良には見えない感じの奴らばかりだった。
眼鏡を掛け真面目そうな男に、体格のポッチャリと、いうかどちらかと言えばデブの男に、貧弱で何の取り得も無さそうな男。その他にも、数人といっても、10人位だがこの3人が一番男と親しく話をしていた。
「そう言えば、リーダーは告白しないんですか?」
野太い声の体格のポッチャリした男が、そう言って持っていたポテトチップを口に運ぶ。バリバリと音を立てているポッチャリした男を、睨み付けたリーダーと呼ばれた男は口を開く。
「お前、何言ってんだ!」
「そうだよ。大輔。リーダーが告白しないわけないだろ」
少し生意気な声で、眼鏡を掛けた真面目そうな男が言った。それを、聞いた瞬間にリーダーと呼ばれた男は驚いた表情で、眼鏡を掛けた男を見る。
何かを言おうとしたリーダーより先に、貧弱な男が笑いながら、弱々しい声で言う。
「そうですよ。学君の言う通り、リーダーは逃げませんよ」
「そうかな?」
ポッチャリした男 大輔は見えない首を傾げて、ポテトチップをまた口に運ぶ。それに対し、周りにいる数名の男達の「告白するに決まってるだろ」とか、「そーだ、そーだ」などと声が飛び交っていた。
こうなってしまえば、もう告白をすると言う道しか選ぶ事は出来なかった。
「そうだ。学の言うとおりだ。俺が告白しないわけないだろ!」
強気な声でリーダーはそう言って笑うが、その顔は明らかに引きつっていた。実は、この男凄く弱気な性格で、マイナス思考の考えしか出来ない。見た目は不良っぽいが、きちっと授業に参加し真面目な男なのだ。
そんな弱気な性格の男が、告白なんて出来る訳がない。だが、意思が弱くすぐに周りの流れに、左右されてしまう。
「それじゃあ、早速行きましょうか?」
眼鏡を掛けた男 学がそう言ってずれた眼鏡を元に戻す。その目は、何やら企んでいる様な目をしている。そんな事には、全く気付かず恐る恐るリーダーは口を開く。
「行くってどこにだ?」
「決まってるじゃないですか。告白にですよ」
「――!?」
リーダーの質問に、期待に満ち溢れた声で貧弱な男が返答する。その言葉に驚き、リーダーは口から心臓が出そうになった。
だが、そんなリーダーの事など無視して、他の仲間達は話を着々と進めていく。
「確か、公園で待ち合わせでしたよね?」
そう言ったのは貧弱な男だ。
「そうだよ。啓太君」
貧弱な男にそう言ったのは、眼鏡を掛けた男 学だ。リーダーよりも、リーダーシップを発揮する学は、話を進めて何も言わぬままのリーダーを、公園のすぐ近くまで連れて行く。
多少頭がボーッとしているリーダーに、眼鏡を掛けた学が声を掛けた。
「大丈夫ですか? 告白の言葉は決まりましたか?」
「……」
返事はないが学は気にせず、言葉を続ける。
「それでは、頑張ってください」
学はそう言ってリーダーの背中を一押しした。背中を押され、リーダーは公園の中へと入っていった。
頭が真っ白で、どこへ行ったらいいか分からず、リーダーはボンヤリと歩いていた。そんな様子を、塀の向こう側から見ている連中は、
「リーダー、大丈夫かな?」
野太い声のポッチャリ体系の大輔が、ハンバーガーを食べながら心配そうに言った。誰も大輔がどこからハンバーガーを出したか、気にせず話を進めた。
「多分、アレは無理かな? 今頃、頭の中は真っ白だ」
諦めた様子の声で、眼鏡をあげながら学はそう言った。ここにいる全ての者が知っている。リーダーが見た目以上に弱気な性格だという事を。
「どうする? あのままじゃあ、告白は失敗しちゃうよ。リーダーって、ガラスの心だから」
心配そうな声で、貧弱な体の啓太が言うと、周りの皆は頷いた。その時、女の子の悲鳴が聞こえた。
「キャッ! 止めて!」
その声のする方に目をやると、一人の女の子が10人位の不良に絡まれている。不良といっても、違う学校の不良だ。
「あの娘、確かリーダーの告白する……」
「あっ、本当だ。どうする?」
焦る啓太の言葉に、のんびりとした口調で大輔がそう言い、リーダーの方を見る。リーダーは離れた位置で、立ち尽くしている。暫く様子を伺っていたメンバーに、学が叫んだ。
「まずい! 皆、僕等も行くぞ!」
『オーッ!』
学達は、一斉に公園の中に走り出す。その瞬間、リーダーが叫びながら女の子に、絡む10人の不良に向かって行く。
「ウオオオオッ!」
その声に気付いた、不良の一人がリーダーの方を見て、笑いを含んだ声で言う。
「な、何だあいつ」
そう言った瞬間、リーダーの拳がその男の頬を殴り飛ばす。男の仲間は驚いた表情を見せるが、すぐに我にかえる。
「な! 何だてめぇ!」
女の腕を掴む男が、そう叫んでリーダーを睨み付ける。他のメンバーはリーダーを取り囲み指の骨を鳴らす。
「俺の学校の生徒に手を出してんじゃねぇ!」
俯きながら、リーダーはゆっくりと言う。その声が聞こえなかったのか、男の仲間の一人が答える。
「はぁ? 何言ってんだ?」
そう言いった瞬間、男の右頬にリーダーの拳が飛んだ。殴り飛ばされた男はその場に倒れる。その瞬間に、周りの連中がリーダーに殴り掛かると、同時に学の声が響く。
「皆! リーダーを止めろ!」
リーダーは殴り掛かる連中を、殴り飛ばしていく。リーダーの仲間数人が、リーダーを止めようとするが、それを振り切りリーダーは、女の子の腕を掴んでいた男に殴りかかった。一発、二発と浴びせていくリーダーの体を、抑え様とする学達だが、全くもって抑える事が出来ない。
「駄目だ! 学! もう、止められないぞ!」
「何としても止めろ!」
学は叫ぶが他校の連中は、リーダーを一発でも殴ろうと拳を出す。しかし、全て空を切り、リーダーの拳を逆に浴びていく。
実は、リーダーは弱気でガラスのハートだが、なぜか喧嘩だけは強い不思議な人物だった。 その暴走するリーダーを止めたのは、彼女の一言だった。
「ちょ、ちょっとやめて! 私の彼氏に何するの!」
この言葉に、一瞬にして辺りは静まり返った。リーダーは氷の様に固まった。そして、この時リーダーの失恋は決定した。
その後、学が相手と話し合い和解して、何事もなく事がすんだ。リーダーの失恋を除いては……。
「ううっ……」
「リーダー、泣いてるよ」
泣いているリーダーを見ながら、野太い声で大輔がそう言う。その手にはホットドックを持っていて、口をモゴモゴさせている。
「僕達、留年だって……」
「卒業式はお預けか……」
弱々しい啓太の声に、少し嬉しそうな声で学がそう言った。リーダーは失恋と留年と言う、ダブルパンチで立ち直れそうになかった。そのリーダーに、大輔がポテトチップの袋を差し出し言った。
「リーダー……。リーダーには、オラ達がついてるんだ。これでも、食べて泣き止むんだな」
泣いていたリーダーは、顔を上げて大輔の顔を見る。まさか、大輔が自分のお菓子を、人に渡すなんて思ってもみなかった皆は、驚きに目を丸くしている。
「お……お前だ……」
鼻声でリーダーはそう言って、皆の顔を見回す。そして、鼻を啜りポテトチップの袋を取り、立ち上がり叫んだ。
「オウ。俺にはお前達が、ついてるんだ。また、高校生活を楽しむぞ!」
『オオオッ!』
周りの仲間達がリーダーの声に、そう叫んだ。学と啓太は顔を見合わせて、クスクスと笑い出す。そして、リーダーはポテトチップの袋に手を突っ込む。その瞬間に表情が曇り、横に座る大輔の方へと顔を向け、少し怒りの篭った声で言う。
「だ〜い〜す〜け〜! てめぇ、これクズだけじゃねぇか!」
「だって、リーダーに食わせるの勿体無いじゃないか!」
野太い声で大輔はそう言って、見た目に似合わない素早い身のこなしで逃げ出した。
「逃がすな! 皆で捕まえろ!」
『オーッ!』
こうして、リーダーは仲間と過ごす楽しく幸せな時間を、少し長く過ごす事が出来た。