猫と私と(涼風 すず)
「にゃ〜ん」
朝、飼い猫が甘えてきた。
私はそれに答えるように、猫の頭をなでる。
ゴロゴロ喉を鳴らして甘える猫は可愛らしい。
「あんた、そんなにまとわりついたら邪魔でしょ」
いくら可愛いからってもう起きなくては遅刻してしまう……
「にゃー」
猫は自由気ままだ。
もう起きなくてはいけないのに、布団に入りたがる。
「駄目だって。もう起きるから」
猫は一向に諦める気配はない……
「駄目だって。私がどいたらどうせ寝ないんだから」
そう、寝かせてあげても良いが、私が起きるとどうせ起きてしまうのだ。
「ふにゃー」
なんとも変な声をだすんだろう……そんなに入りたいの?
私は近くに置いてあった携帯を手に取り、時間を確認した。
「あ、何だ。今日、日曜じゃん」
うっかりしていた。今日、仕事は休みだ。
「にゃー」
まだゴロゴロ喉を鳴らして甘えてくる。
「はいはい。分かったから」
私は猫の頭をなでると、布団に入れてあげた。
猫は喉をゴロゴロ鳴らして寝始めた。
「もぅ、可愛いんだから」
クスッと笑って私はまた眠りについた。
猫はすごく温かくて、可愛くて、私に幸せな時間を与えてくれる。
――そう、幸せな時間を与えてくれていた……
「またあの夢か……」
私はまだ忘れられずにいた。
今日からちょうど一年前に亡くなった愛猫マロンのことを。
「はぁ〜…」
深いため息をつき私は布団からでた。
「マロン……」
写真に写ったマロンは幸せそうに寝ていた。
マロンが居なくなってから週一回は必ずさっきの夢を見る。
そして、毎回写真に写ったマロンの姿を見ては涙する。
「あ、早くしなきゃ」
私はすぐに用意して仕事に出かけた。
マロンの一回忌の日にも私は仕事だ。本当に嫌になる。
――本当に今日はついてない日だ。
「はぁ……」
嫌々仕事を終わらせて帰る頃には外には雨が降っていた。
天気予報では今日は一日中天気が良いはずだ。
だから傘なんて持ってるはずもなく、びしょ濡れになって帰るしかない……
「ミァーミァー」
そんなときだった。
びしょ濡れになりながら走ってる私に一生懸命に子猫が鳴いてきた。
「……どうしたの? 迷子?」
私がそっと話しかけると、子猫はさらに鳴き始めた。
「ミャーミァー」
よく見ると子猫の横にはびしょびしょに濡れたダンボールが見えた。
「拾ってください……」
私はゆっくりと書いてある文字を読んだ。
「捨て猫かぁ……」
「ミャー」
しばらく考え込んだ私は決めた。
「これもなにかの縁かもね。私と一緒に住む?」
私は優しく笑いかけながら、子猫を抱いた。
それは凄く軽くて、冷たくて……凄く凄く小さかった。
「一人で頑張ってたんだね……」
いつの間にか涙が流れてきていた。
マロン……私、この子と暮らしても良いかな?
もちろん、マロンの事は忘れないよ。
この子と暮らしたら、マロンの事を思い出す時間が幸せな時間になると思うんだ。
今はマロンの事を思い出すと凄く辛くて仕方ない。
マロンと過ごした時間は凄く幸せだったはずなのに、なのに思い出すと辛いんだ。
マロンとの思い出を幸せな思い出にしたいから……だから、この子と暮らしても恨まないでくれるよね?
私は子猫を抱いて、急いで家に向かって走り出した。