プロローグ
無数のきらめく光が夜空と摩天楼を鮮やかに照らし出し、眠ることを知らない街の喧騒と幻想的な輝きがどこまでも続いていく。
まるで星々が地上に降り注いだかのような、光り輝く美しく壮大な夜のニューヨーク。の、交差点。
勤めている会計事務所からの帰り。
俺は何故かパトカーと警官集団に囲まれていた。
交互に輝く赤と青の光。自分の顔から血の気が引くのがわかる。
「両手を上げろ!」
言われた通りに両手を上げ、敵意がないことを示す。それにしてもなんでいきなり...もしかしてハリウッドの撮影か?
わーお、リアルだね。十数人あまりだろうか、全員が俺に銃を向けている。どうせモデルガンなんだろう?
「えーと、どんな風に演技すれば?」
警官は、こちらの言っていることがどうにも理解できないらしく、眉を寄せながら首をかしげた。何かを確かめるようにこちらの顔をじっと見つめたあと、困惑した様子のまま、ゆっくりとこちらへ近づいてくる。その足取りには警戒するような慎重さがあり、何をすればいいのか決めかねているようにも見えた。
「...何を言っているんだ?」
───────ハリウッドじゃないのか?
じゃあなんで...俺何もやってないぞ?
「俺は刑事のダーベック・ベーシュだ。ハード・イーサン、お前は昨日14時16分、ラスベガスにあるカジノ三軒を爆破した疑いがある。詳しい話は署で聞かせてもらう。ここで逮捕させてもらう」
その言葉を聞いた瞬間、頭の中が真っ白になった。
「……何を言ってるんだ?」
思わず乾いた声が漏れる。
ラスベガス? カジノ? 爆破?
あまりにも突拍子のない言葉が一度に並べられたせいで、頭がうまく追いついてこない。俺は反射的に首を振った。
「俺はそんなことしてない。そもそも昨日の14時16分にラスベガスなんてそんな訳ないだろう」
自分自身に問いかけるように呟きながら、必死に昨日の記憶を探る。しかし、頭の中に浮かんでくるのは断片的な光景ばかりだった。
「ラスベガスなんて行ってない。カジノだって知らない。ましてや爆破なんて、そんなの絶対に俺じゃない」
だが奴は呆れたとでもいうかのように首を横に振った。
「人違いだろ! ちゃんと調べてくれよ! 俺が昨日どこにいたのか、調べればすぐ分かるはずだ!」
奴は何も答えなかった。
ただ、こちらをじっと見つめたまま、手にした手錠をゆっくりと持ち上げる。
「だから待ってって」
俺は一歩後ずさった。
「話を聞け。俺には動機もないし、そんなことをする理由もない。そもそも俺がどうやってラスベガスまで行ったっていうんだ?証拠はあるのか?」
矢継ぎ早に言葉をぶつけるが、奴の表情は変わらない。
「落ち着け。詳しいことは署で確認する」
「落ち着けるわけないだろ」
「いきなり爆破犯扱いされて、何の説明もないまま逮捕されろっていうのか?何もしてないのに?」
ダーベックが再び俺の手首へ手を伸ばしてくる。
冷たい金属が視界の端で光った。
「やめろ」
俺は咄嗟に手を引いた。
「俺じゃない」
「いいや、お前だ」
奴は短く言い切った。
「通報があったからな」
「……通報?」
俺は思わず聞き返した。
その言葉だけが妙に引っかかった。証拠があるわけでもなく、俺を現場で見たわけでもない。それなのに、奴はまるで最初から俺が犯人だと決めつけている。
「ああ」
奴はは手にした手錠を弄びながら、淡々と答えた。
「ある人物からな」
「ある人物って……誰だ?」
俺は一歩、奴との距離を取った。
「名前を教えろ。誰が俺を通報した?」
「それは言えない」
「なんでだよ!」
思わず声が大きくなる。
「俺が爆破犯だっていうなら、通報した奴が誰なのかくらい教えてくれたっていいだろ。そいつが何を見たのか、何を根拠に俺だと言ったのか、それを確認しないと話にならない!」
奴は黙ったまま俺を見つめている。
「まさか、名前も分からない奴の話を信じて、俺を逮捕しようとしてるのか?」
「通報内容は確認している」
「じゃあ、何を通報されたんだ?」
俺は畳みかけるように問いかけた。
「俺が昨日ラスベガスにいたって言ったのか? 爆破するところを見たのか? それとも、俺が犯人だっていう証拠を持ってるのか?」
ダーベックの表情がわずかに変わった。
ほんの一瞬だったが、何かを知っているような、あるいは言うべきか迷っているような顔に見えた。
「……通報者は、お前のことをよく知っている」
「俺を?」
背筋に嫌な感覚が走った。
「だったらなおさら誰なのか教えてくれ」
「それはできない」
「どうしてだよ……」
声が少しだけ震えた。
「俺が知らないところで、誰かが俺の名前を使って通報したっていうなら、それこそ調べるべきだろ。俺には昨日のアリバイがある。移動記録も、通話履歴も、調べれば確認できる。なのに、たった一人の通報だけで俺を犯人扱いするのか?」
奴はしばらく黙っていた。
そして、低い声で答えた。
「……その人物は、お前が犯人だと断言している」
「だから、その人物って誰なんだよ!」
俺の問いに、奴は答えなかった。
ただ、手錠を握り直すと、再びゆっくりと俺のほうへ歩み寄ってきた。
手錠が手首に触れる感覚を、俺は一生忘れられないと思う。ヒヤッとして、心臓がバウンドするような感覚。
それからのことを俺はあまり覚えていない。
気づいたら俺は逮捕されて、警察署に連行されていた。
警察署でも警官たちは同じような態度をとった。
どれだけ抗議してもあいつらは「通報があった」か「お前に決まってる」しか言わない。
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一週間経った。もういい。
頭がおかしくなった。
───もう俺が犯人でいい。
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嘘の自白をした。このクソみたいな尋問地獄から逃げるにはこれしかなかった。俺が自白した時の警官の言葉が耳を離れない。
「やっと言ったか...これで|よ
《・》し」
最悪だ。どうしてこんなことになったんだ。
[謎の男視点]
今日は雨だったか、あまり気乗りしない天気だった。天気というものはコロコロ変わる。だが煙草の味は変わらない。口から煙を吐くことが鬱憤を晴らすことだ。
一人の喫煙所はいい。どれだけ大きくため息をついても舌打ちされない。
<ガチャ>
新しい空気が入ってくる。喫煙所には不要なものだ。
「██████・████。少しお話があります」
またか。正義を名乗る以上、こういうのは無くすべきだがな。しかし私とて余裕がある訳ではないからな。
「またお前らか。██。分かった」
[イーサン視点]
自白した。俺の人生はもう詰みだ。
木槌の音が法廷に響き渡る。俺が何をしたっていうんだ。会計をしてたらちょっとめんどくさい箇所が見つかって残業してただけなのによ。
「被告人、ハード・イーサン。前へ」
なんでここにいるのかもわからない。早く家に帰してくれよ。オンボロのアパートだけどさ。警察の留置所よりはマシなんだよ。
「被告人は八日前、ラスベガスのカジノ三軒を爆破した容疑がある。ハード・イーサン。容疑を認めるか?」
「ああ、やったよ」
でもどうせ無理なんだよ。こいつらマジでバカだから。俺を証拠なしで逮捕して裁判にまでかけやがった。もういいんだ。こういう時家族がいたら、否認したりしたんだろうな。
「検察側、主張を」
「こちら、証人のクリス・リチャード殿です」
「被告人は八日前、ラスベガスにいたと、証拠があります。こちらの監視カメラの映像を見ても明らかでしょう。さらに、匿名の通報もありました。容疑は明白でしょう」
なんで?でも確かにあれは俺──でも、俺はラスベガスなんか行ってないし──。
「弁護人、何かあるか?」
「被告人は八日前にアリバイがあります。彼の友人が証言しています」
「では、そのアリバイというものを教えてもらおうか、ええ?具体的にだ」
静寂が法廷を飲み込んだ。弁護士の唾を飲み音が聞こえる。なんだよ、アリバイがあるんだろう。言えよ。
確か前の日は、久しぶりに友達と遊んだな。監視カメラがあるはずだ。さすがに何かあるだろ。
「───、以上です」
「そのアリバイに証拠は?」
「...何も、ありません。証拠はありません。」
は?なんでだよ。一台の監視カメラにも映ってない訳ないだろ。ふざけるなよ。
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「被告人を、有罪とし、CAイージス大監獄にて終身刑とする」
なんだよ。なんでだよ。
結局弁護側は俺のアリバイの証拠を出せずに検察側に押し切られた。
おかしいだろ。なんでだよ。
終身刑?いやだそんなの。
「連れて行け」
俺の後ろから男二人が寄ってきて拘束してきた。肺が潰れる感触がする。残りの空気が全部一瞬で出ていった。
片方の男が注射器を出して俺の腕に刺した。




