プロローグ 悪役令嬢、過去に戻る
「私、は……こんなに貴方を、愛しているのに…」
信じてくださらないのというラミリアの悲痛な思いは、言葉にする前に儚く消えた。
「黙れ。お前はリリにずっと肩身の狭い思いをさせ、さらには虐げてきた。追放なんて生易しいもので済んだのは、リリの優しさのおかげなんだからな」
「レオ様、そんなに言ったら可哀想ですわ。ラミリアお姉様、私は貴女を許します」
悲しそうな顔で私を見つめるリリアン。
「でも、お願いですから…これ以上、私をいじめないでっ……! もう、苦しいのは嫌なの……!」
泣き崩れるリリアンを、レオナルド様は優しく抱きしめた。
そして優しく甘い目を彼女に向けた後、冷たく鋭い目で私を見る。
「早くこの国から出ていけ、ラミリア! 追放だ!」
そんな……なんで、こんなことに……。
私、ハメられたの……?
△ ▼ △
バッと起き上がる。
ドクンドクンと、心臓が激しく鳴っている。
いつの間にか、汗をびっしょりとかいていた。
周囲を見渡すと、見慣れた小物たちが目に入り、自分の部屋にいるのだと瞬時に理解した。
(どういうこと……? 私はこの国から追放されたはず…。なぜここににいるんですの?)
状況を理解できず困惑していると、「ラミリア様」と懐かしい声が彼女を呼んだ。
声の主を振り返る。
その人を視界に捉えた瞬間、ラミリアはこぼれ落ちんばかりに目を見開いた。
「ミ、ア──………?」
ミアだ。ミアだ。どうして。
どうしてここにいるの。
いるはずがないのに。
だって貴方は、
「ラミリア様……? どうかされましたか?」
困惑するミアの声を聞き、ようやく気づいた。
いつの間にか、目からとめどなく涙が溢れていたことに。
だが、それも致し方ないだろう。
だって、彼女は───ミアは、六年前に既に死んでいるはずなのだから。
「ミアっ!!」
何が何だかよくわかっていないミアは、突然飛びついてきたラミリアを不思議に思いつつも、彼女をしっかりと優しく受け止めた。
「ラミリア様、大丈夫ですよ。私はいつだってお嬢様の味方。ですから、どうか泣かないで。ラミリア様の美しいお顔が台無しでございます」
ミアは既に死んでいる。
生きているわけがない。
だから、目の前のミアはミアじゃない。
死人の…死人のはず、なのに。
なのに、なのに! 私の全身がそれを否定している!!
だってほら、耳をすませば、ミアの呼吸の音、心臓の音が聞こえる。
息を吸えば、ミアの匂いがする。
目の前のミアは、本物のミアだ。
そして、ちゃんと生きている!
「ミア……ミアぁ…!! ミア、ミア、ミアだ!」
「はい、ミアはここにおります。大丈夫ですよ」
己の専属次女を呼べば、優しくミアはそれに応えてくれる。
しばらくの間彼女の腕の中で泣き続けると、流石に頭も冷えてきた。
「ミア、ありがと。取り乱してごめんね」
回るようになった頭でこの状況を整理すると、自ずと一つの答えが見えてくるというものである。
「いえいえ、ミアはお嬢様…ラミリア様の要望に応えるために存在しているのですから。これからも、たくさん頼ってくださいね」
そう言ってはにかむミアを見ながら、ラミリアは理解した。
────自分は、過去に戻ったのだ。
そうでなければ説明がつかない。
だが、あまりにも突拍子な考えすぎる。
確信するためにミアのこと以外にもう一つ、何か証拠が欲しかった。
「ミア、申し訳ないのだけれど、少しの時間一人にしてもらえるかしら」
「承知いたしました。では、朝食はお部屋にお持ちするということでいいでしょうか?」
「ええ、そうね。お願いするわ」
そういえば今は朝だったのかと思いながら、ミアが出て行くのを見届けると、ラミリアは日付を確認しに行った。
そして暦を見た瞬間、ラミリアは目を丸くした。
「に、20××年!? 八年前ではありませんか!」
ミアが生きていることから六年以上前だとはわかっていたが、まさか八年も過去に来てしまったとは。
その計算で行くと、ラミリアは今10歳ということになる。
確かに、手がだいぶ小さいし、身長も低い。
……これからの生活が不便になりそうだ。
だが、一旦これで証拠は揃った。
ラミリアは本当に過去に戻ったのだ。
先ほどまでのラミリアは状況が状況なものだから、少々この出来事を悲観的にとらえていたが、今は真逆の考えを持っていた。
これはチャンスだ。
ラミリアが行動を変えたら、未来は変わるに違いない。
そうすれば、ラミリアが国を追放されることもなくなるだろう。
そして、何よりも……
『ミアの死』を、防ぐことができる…!
これ以上の喜びはなかった。
ミアはラミリアが3歳の頃に専属次女となり、亡くなるその時までずっとラミリアの世話をしてくれていた。
ラミリアにとっては姉同然、家族よりも多くの時間を過ごした大切な人。
私の目標、いえ、『確実に実現する』こと、それは……
ミアを、死なせないこと!!




