第5話 婚約破棄を突きつけられました
そんなやりとりから六日が経った、休日のこと。
「ミレイユ、貴様、やってくれたな……っ!」
先触れもなしに押し掛けてきたと思ったら、子爵邸の応接間でオスカーが猛々しく吠えた。彼の隣にはキャスリーンの姿もある。
「一体何事でしょう?」
ソファに腰掛けたまま、ミレイユはおっとりと首を傾けた。
「とぼけるな! 昨日、お前が学院でキャスリーンを階段から突き落とした件に決まっている!」
まったく身に覚えのない話である。
「私は先日お約束したとおり、キャスリーン様には一切近づいていませんが……」
「この期に及んでシラを切るつもりか! キャスリーンの右足の腫れを、俺はこの目で実際に見ている。言い逃れできると思うなよ……っ」
(まあ……)
ミレイユはちょっと驚いた。
ということは、キャスリーンの怪我自体は事実なのだろう。ミレイユを悪者に仕立て上げるために自ら怪我を負ってみせたのだとしたら、なかなかの度胸だ。
「忠告したはずだぞ、ミレイユ! 両親が定めた婚約だ。致し方ないと受け入れていたが、もう我慢ならない! 貴様との婚約はこの日を以て破棄する……っ」
ひと息に捲くし立ててから、オスカーはキャスリーンをこれ見よがしに抱き寄せた。
「それから、この件の責任を取って、俺はキャスリーンを妻に迎える!」
「オスカー……」
感極まりましたという風に、キャスリーンが潤んだ眼差しでオスカーを見上げる。
オスカーは猛禽類のような目でミレイユを鋭く見据えた。
「侯爵家嫡男である俺の決定だ。マグノリア家に異論は挟ませない。両親にもだ。三日後、書類にサインしに屋敷まで来い」
ミレイユの意見など聞く気がなさそうに、オスカーは一方的に言い捨てた。
彼の腕の中で、キャスリーンは勝ち誇った笑みを浮かべている。
ミレイユは静かにソファから立ち上がり――いつものように、何も反論せずに膝を折った。
「承知しました。オスカー様のおっしゃる通りに」
そうして、オスカーに求められた通り、ミレイユは父と共に侯爵邸を訪ね、婚約解消の書類にサインをし――二人の婚約は、これにて解消となったのだった。




