第1話 お昼休み
週初めの昼休み。
食堂での友人たちとの話題は、専ら昨日の休日は何をしていたか、というものだった。
「それじゃあ、先週に続いて昨日もアルヴィン様と過ごしたのね」
ミレイユの番が回ってきたのでアルヴィンとカフェで過ごしたことを話すと、中等部の時からの友人クララが華やいだ声を上げた。
「ええ。アルヴィン様はマメな方ですから。昨日も有意義な時間を過ごせました」
ミレイユはニコニコと微笑む。大変楽しい時間だった。
オスカーとの婚約を解消してから、もうすぐ二週間になる。
婚約解消の件も、新たにアルヴィンと婚約を交わしたことも。ミレイユは一切公言していなかったのだが、人の口に戸は立てられないというべきか。
一週間が経過する頃には友人たちは当たり前のように一連の件を認知していたし、この数日間でミレイユは好奇の視線に晒されることが増えた。
どうやら、ミレイユの婚約事情はすっかり学園中に広まっているようだった。
幼馴染ばかりを優先する婚約者が件の幼馴染に乗り換えて婚約解消。その日に今度は弟と婚約を結んだ。
話題性は充分で、噂の種にはもってこい。生徒たちが興味を示すのは当然とすら言える。
「オスカー様が婚約者の時は心配で堪らなかったけど。お相手がアルヴィン様となると、途端に安心感があるわね。兄弟の格差がすごいわ」
「素直に羨ましいもの。次男だから将来性に不安はあ
るけれど。そこさえ目を瞑れれば、最高のお相手よ」
と感想を漏らすのは、こちらは高等部に上がってから親しくなった友人、エステルとオリビア。
中等部三年生のアルヴィンは成績優秀、物腰穏やかで女性に優しいので、社交界での評価は高い。
正式な発表がまだなので伏せているが、侯爵家の家督もアルヴィンが継ぐとなれば将来性だって抜群。ますます評価が上がるのではないだろうか。
「本当、あのクズ……こほん、困ったお方と破談になってよかったわ」
「まったくよ。ミレイユから惚気を聞ける日が訪れるなんて……感動で泣きそうよ」
「その節は、ご心配をお掛けしました」
ミレイユは割り切ってオスカーと付き合っていたけれど。友人たちは文句を胸の内に留めていただけで、随分と気を揉んでくれていたみたいだ。
「ああ、でも。婚約者としての縁は切れたけれど、今度は義理の兄という関係性がついてくるのよね」
「おまけに義姉はキャスリーン様でしょう? それはそれで、ミレイユが心配になるわ」
友人たちの懸念に、ミレイユが口を開こうとすると。
「ミレイユ嬢」
ふっと影が落ちたかと思うと、背後から男性の声が掛かった。首を巡らせると、青み掛かった銀髪の男子生徒と目が合う。
長身痩躯の、精悍な顔立ちをした令息――ルーク・ハイランド。
ハイランド伯爵家の長男で、ミレイユと同学年。ハイランド伯爵夫人とミレイユの母は大の親友で、伯爵家とは家族ぐるみの仲。ミレイユにとってのルークは幼馴染の間柄になる。
といっても、ここ最近はすっかり疎遠になっていたけれど。
十三歳になる年に学園に入学して五年が経つが、学内で彼とまともに顔を合わせるのは初めてのことだった。
「歓談中に割り込んで済まない。この後、少し二人で話せるだろうか」
妙に神妙な顔つきなので、他愛ない世間話、なんてことはなさそうだった。
「人目のある所ででしたら、もちろん構いませんわ」
「では、中央庭園の噴水前で待っている」
端的に用件だけ告げて、ルークは去っていった。
「何かしら?」
「何でしょうね」
不思議そうに顔を見合わせる友人たちと同様に、ミレイユも何事かと首を傾げるのだった。




