第20話 共闘
20話まで書いたのは初めてです
これも読者のおかげ
「吐いてきた?」
「一日分の食費くらいね」
「リリスさんって本当にお酒弱いんですね」
「シラフじゃやってけないから飲もうとはしてるんだけど、どうにもねぇ……体が受け付けてくれないみたいで」
リリスが椅子に座ると、サラが伝票を見て眉にシワを寄せた。
ベティは店員を呼び止め、いくつか注文をする。サラは伝票を握りつぶし、喉から出そうだった声をぐっと飲み込む。
ベティはその体格に似合わず大食漢だ。酔いが回っていない時は、それを恥ずかしがり隠そうとするが、今のようにアルコールを摂取した時だと話が変わってくる。食欲を解放し、貪るように料理を平らげる様子はネクストルムに匹敵するものだった。
「インナーマッスルのせいかしら……」
「そんなに筋肉ないよ」
「うそつき」
リリスが小突く。ベティの腹を触ろうとしたが、掴める肉がない。
「へっ、引き締まってるだろ」
「硬すぎ。石かな?」
ベティは自慢げに鼻を鳴らす。運ばれてきたリブを噛み締める。その姿は人間というより機械のようだった。骨から甘辛いソースのついた肉を引き剥がし、咀嚼する。
次々と骨が皿の上に置かれる。エレンがその様子を見て目を丸くした。
「ベティさん、すごい食欲ですね……」
「戦うにはさ、燃料が必要なんだよ。たくさん燃焼させて、また補給する」
「私の財布まで燃焼させる必要はないと思うのだけれど……」
「ケチなこと言うなよ大尉殿、私より手当たくさんもらってるんだろ」
「あら?ほとんど変わらないわよ、接待費が少し多いくらいね」
ベティは喉を潤すためジョッキに残ったビールを流し込み、ぷはぁ、と短く息を吐いた。
「あーあ、これ以上はムリ……」
リリスがテーブルの上に突っ伏し、恨めしそうにベティの口元を眺める。エレンが苦笑し、ベティから半ば無理やり握らされたリブを頬張る。小さな一口だった。
「で、もしも待ち伏せだったとしたらどうするの?」
サラは空になったジョッキを指でなぞり、視線を落とす。店内の照明がガラスに反射し、サラの険しい顔を照らした。
リリスの問いに対してサラは重く答える。
「軍に報告したところで、偶然か特異個体と片付けられるのが関の山よ。でももし、それがあらかじめ設置された『罠』だとしたら」
「……上層部に情報を流したやつがいる、ってことか」
ベティが低く呟く。
「だとしたら、なんのために?エレンが重要人物なら、それを妨害することになんのメリットがあるの?」
「人類の……敵、とか」
不意に店の喧騒が一段と大きくなった。
泥酔した兵士と労働者が衝突し、椅子をぶつけ合っている。ジョッキが弾ける鋭い音が響く。
騒音でエレンがはっと我に返った。
「もしかしたらネクストルムの行動を観察するためにエレンを使ったかもしれないわ」
リリスがテーブルから顔を上げる。
「それじゃあその人たちは犬じゃなくてモルモットになっちゃったってこと?」
「あくまで仮説よ。でも……可能性は高いわ」
ベティが鼻息を荒く吐き出すと、手についた油を拭いた。
「どこのどいつか知らないが、味方を実験台にするようなやつがいたら、私が直々にキャリアーの口に突っ込んでやるよ」
吐き捨てるように言う。
最後に残った骨から僅かに残った身を剥がした時だった。
四人の動きが止まった。サラの腕時計から電子アラームが響いた。聞き慣れない呼び出し音は、軍の高官から直接連絡が来る時の、優先度が高いものだった。画面に表示された名前を見ると、サラの首筋に一筋の汗が流れる。
「マクスウェル大佐からね」
サラが通信を許可すると、小さくノイズ混じりの音声が流れ始める。サラはスピーカーにし、音量を上げた。ベティとリリス、エレンが彼女の近くに寄る。
『えーと、こちらマクスウェル。夜分にすまないな』
「いえ、問題ありません」
『打ち上げのところ悪いが、明朝に新しい任務を与える。詳細は本部で伝えるが、一つだけ先に伝えておく』
マクスウェルは一呼吸置いた。
『今回の任務はパエトーンと合同で行ってもらう』
「我々アリアドネとパエトーンと、ですか」
『ああ、先の模擬戦が上の方で話題になってな』
マクスウェルの乾いた声が響く。
そして、リリスとベティが言い返す間もなく、一方的に通信が切られた。
「でもさ、屈辱的な敗北を経験したわけだし、少しは態度を改めるんじゃないかな?」
リリスが言う。笑ってはいたが、瞳の奥には隠しきれない不安があった。
精鋭を自負し、アリアドネを見下していた彼女たちが敗北の経験を糧にし、素直に肩を並べて歩くとは、到底リリスには想像出来なかった。
共有された座標を見ながら、ため息をつく。
「向こうが噛み付いてきたら──」
ベティが自分の首を横向きになぞる。
「また牙を折るだけさ」
21話から一区切りなので、1週間くらいお休みを貰おうと思います




