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商隊

 そうこうしているうちに林道を抜けて村が見えてきた。


「あれは……?」


 ヒューガは村の入り口を指して言った。

 そこには見覚えのない幌馬車が数台列をなし、歳も服装もまちまちな男たちが馬車から降りて賑やかに談笑していた。


 「おおっ! 誰かと思えばノエル先生じゃないか! 俺たちも、ちょうど今着いたところなんだよ。もしよかったら前にくれたアレ、みんなに配ってやってくれないか?」


 幌馬車の陰から現れたのは、この集団の責任者だろうか。厚手のリネンシャツになめし革の丈夫そうなベストを着込んだ中年の男が、こちらに気づいて人好きのする笑顔で手を振った。

 一目で商人とわかる整った出で立ちだが、豊かに蓄えられた髭に大柄でがっしりとした体格からは、旅慣れたやり手の風格が感じられる。

 どうやら、彼らは村に作物を買い付けに来た商隊のようだ。周りで荷解きをしている胸当てを着た強面の男たちは、護衛に雇われた傭兵なのだろう。


「二ヶ月ぶりかしら? 長旅お疲れ様、クレマンさん。そろそろ今月の隊が来る頃だと思って、ちゃんと用意してあるわよ。どうせ、今日はみんな酒場に直行なんでしょう? あとで持って行ってあげるから、お酒はそれまで我慢してちょうだいね」


 見知った顔なのか、ノエルは気さくに返事をした。


「さすが先生、気が利くな! ところで、初めて見るそっちの剣士の兄さんは……ひょっとして先生の――」


「昨日森で拾ったの。さあ行くわよ、助手1号」


 先回りするよう助手を強調して言うと、ノエルは拾得物の袖を引っ張って村に入っていく。


(ヒューガが1号ってことは……2号ってもしかしてボクってこと!?)


 呆気にとられる男たちを残して、ヒューガは雇い主に引きずられていった。


 ――助手1号、か。……ⅩⅢ号などよりずっと格の高い位を賜ってしまったな。



    *



「先ほどの商人が言っていた〝アレ〟というのは……?」


「あなたも昨日飲んだでしょう?」


 ノエルは棚に置かれた青い瓶を指して言った。


「あのポーションか! たしかに、旅の疲れを癒すにはうってつけだ」


 ヒューガは、自分の中のポーションの概念を完全に破壊した甘美な味を思い出した。

 商隊のリーダーの男が、長旅で疲れた仲間たちに振舞ってやりたいと思うのも納得の逸品だった。

  

 彼女に連れられて診療所の裏手の入り口から入ると、そこは薬を調合するための小さな工房になっていた。

 ノエルの性格を表すように多種多様な植物の種子や葉が整然と管理されている一方で、テーブルには分厚い書物が雑然と積み上がる。

 彼女の薬師としての、そして研究家としての姿を象徴するような知性の殿堂がそこにはあった。


「というわけで――はい、力自慢な助手1号の出番よ」


 そう言うと、ノエルは薬瓶がたくさん入った大きな木箱を重たそうに引っ張り出してヒューガに押し付けた。


「もう1個、持てる?」


「無論だとも。先ほどの話だと、全部宿酒場に運び込めばいいんだったか?」


 ヒューガは即答して屈むと、二段に重なった木箱を軽々と抱え上げた。


「……ほんと、拾って大正解ね」


 ノエルは若干呆れ交じりの感心を漏らすと、自身もポーションの入った小さな木箱を抱えて「さ、行くわよ」と促した。

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