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見捨てられた村

 ノエルに連れられて村を回ること小一時間。

 昨晩彼女の言っていた村長宅で穏やかそうな老夫婦に挨拶したのを皮切りに、点在する家々や村唯一の宿酒場、畑で精を出す女性や老人たちに声をかけては丁寧に自己紹介をしていく。

 ノエルの言うとおり、珍しいものを見るような好奇の目に晒され続けたが、幸い昨日のうちにロジーヌたちから話を聞いていた者も多いようで、「ノエルちゃんを助けてくれた放蕩の文無し貴族」という――若干不本意な――認識の下、みな快く握手を返してくれた。

 

 ヒューガは内心とても安堵するとともに、改めてノエルの人望の厚さに感心させられた。

 もしも彼女の導きなしにこの村にたどり着いていたとしたら、こんなにもすぐに歓迎されることはあり得なかっただろう。


 しかし、村を歩き回る中でそれ以上に強く引っ掛かりを覚えることがあった。


(……おかしいと思わないか?)


(あ、ヒューガも気づいた?)


 バングルの太陽石の中から、セラが声を返す。

 彼女も同じ違和感を覚えたようだ。

  

「ノエル、ひとつ聞いてもいいかい?」


 ひとしきり挨拶回りが済んだところで、そのままノエルの日課である薬草集めに護衛として付いていくことになった。

 昨日通った村の門を抜けて林道を少し歩いたところで、ヒューガは意を決して切り出した。


「何かしら?」


「私の早とちりならば構わないのだが……先ほどから村で男手をまったく見かけていない。いったい彼らはどこに行っているんだ?」


 この村に来てから出会ったのは、ノエルを含めて女子供と老人のみ。

 鋤や鍬を手に畑を耕すのも、重い水桶を運ぶのも、みなロジーヌのようなたくましい女性たちと腰の曲がった老人ばかり。羊の世話など、昨日声をかけてきた幼い子どもたちまでもが総出で分担している様子だった。

 おまけに、村の家々の多くは屋根や壁が傷んだまま、満足に修繕された様子も窺えない。

 日々重労働をこなさなければならない農村にあって、まるで力仕事の中核を担うべき存在だけがごっそりと抜け落ちてしまったかのような異様な光景だった。


「……いないのよ」


 ノエルは気づくのを待っていた、というような顔で助手を見上げた。


「そんな馬鹿な!? 男手なしで農業など成り立つわけ――」


「成り立ってないのよ、実際。今の村の様子からじゃ信じられないでしょうけど、プリュイって昔はもっと大きくて立派な、それこそ帝都の食卓を支えてるって言われたくらいの一大農業地帯だったの」


 ノエルは沈痛な声で遮るように言った。


「……いったい、どういうことなんだ?」


「都市開発事業で人手が必要だからって、帝国政府直々の徴用で力仕事のできる働き盛りの男はみんな帝都に連れてかれちゃったの。……もう何年も前にね」


「国を支える農業地域の労働力を奪い取るなど正気ではないぞ! その政府は村を見捨てる気か!?」


 同じ帝国の名を冠する国の騎士として、ヒューガは信じられない思いで憤りを露わにした。


「……あなたの言うとおりよ」


「なんだって?」


「見捨てられたのよ、この村は」


 「帰ったら詳しく教えてあげる」とだけ言うと、ノエルはそれっきり何も口にすることなく前を向いてしまった。

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