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リアリスト

「そう……千年に一度だけ、世界に混沌をもたらす《魔王》と、それを倒して世界を救う《勇者》――このふたつの駒を、本当にここぞという時にだけ投入する。自分の《箱庭(せかい)》に対して、偉そうに創造神なんて名乗ってるボクたちが切れるカードは原則たったこれだけしかない。それが、サラちゃんがわざわざ機を見計らって《魔王》の札を切った理由だよ」


「……その言い方だと、神さまにとっては停滞した現状を打破してくれる《魔王》こそが本当の切り札で、《勇者》はただ使い終わった駒の後始末を押しつけられてるだけみたいに聞こえるんだけど」


「ホントに鋭いなぁ……。ヒューガがサラちゃんに押しつけられそうになったのは、つまりはそういう後始末の役回りってことなんだよ。もちろん、自然発生的に魔王と呼べるような邪悪で強大な支配者が現れて世界が滅茶苦茶になっちゃった時、緊急避難的に《勇者》の札だけ切る可能性もあるにはあるだろうけど……まぁハッキリ言って、本当に稀なケースだよ。普通は神の《奇跡》を持たない天然の魔王くらい、《勇者》の力を借りなくても人の力だけでいつかは打ち倒せるはずだからね」


「……だろうな」

 

 女神サラは、己へ向けられる信心のために混沌の世を求めていた。

 それは恐らく程度の違いこそあれ、どの創造神も同じことなのだろう。

 だとすれば、わざわざ貴重な手札を切らずとも勝手に《箱庭にわ》から生えてきた魔王ほど神にとって都合のいいモノはない。

 世界を引っ掻き回すだけ引っ掻き回して人々から信仰の滴を絞り出し、いずれはまるで世界の自浄作用のように程よい頃合いで勝手に始末されてくれる便利な駒。

 神の視座において、そこに《勇者》の出る幕などない。

 

 《勇者》は希望の光などではない。ただの掃除屋だ。

 指示されたとおりに標的を始末する《死神》と何も変わらない。ただ標的が神の作り出した《魔王》にすり替わっただけ。

 そして、それこそが自ら望んだこの旅の終着点。神を殺めた咎人の果たすべき後始末。

 

 創造神であったセラ自身に、改めて事実として突きつけられると胸にくる物もある。

 だが、今は都合の良くない真実も包み隠さず打ち明けてくれる相棒への信頼感の方が勝っていた。

 なんだかんだで、自分はこの元女神のことを好ましく思っているのだと自覚してしまう。


 ノエルは暫し天井を見上げて何かを思案している様子だったが、やがて当初の疑問が晴れたのか、セラに視線を戻した。


「ありがとう神さま、いろいろ教えてくれて。おかげであなたたちの旅の経緯はだいたい理解できたし、とりあえず一旦信じてみてもいいかなって気にはなったわ」


 「少なくとも、ふたりとも悪人ではなさそうだし」と、蒼い双眸がふたりを交互に捉える。


「ありがとうはボクたちのセリフだよ。自分で言っといてアレだけど、こんなトンデモ話いったいどうやって説明したら理解してもらえるかなって心配だったけど、ノエルが頭の柔らかいリアリストで本当に助かっちゃった」


「……リアリスト? わたしが?」


 ノエルは心底意外そうな顔をした。


「そりゃあそうさ。君は、自分の常識っていう誰もが持ってる先入観を真っ先に捨てて、ボクたちという目の前の現実と与えられた僅かな情報からしっかり真実性を見極めてみせた。おまけに、ただ闇雲に信じるんじゃなくって、即座に創造神の不合理に気づいて、それを質そうとする論理性だってちゃんと持ち合わせてる。それこそが本当の現実主義者(リアリスト)ってヤツだと思うな」


「そう? ……案外、『本当にそうだったら興味深いなぁ』って都合良く解釈して、未知との遭遇に舞い上がってるだけの空想主義者(ロマンチスト)だったりするかもしれないわよ?」


 所在なさげに銀色の髪をくるくると弄りながら、冗談めかして言う。彼女なりの謙遜なのかもしれない。


「何はともあれ話もまとまったところで、次はこれからの話。とりあえず、わたしとしては当面助手としてしっかり働いてもらうという方針に変わりはないわ。……まぁ、そっちの神さまには、村のみんなを混乱させないためにも外では腕輪の中でおとなしくしててもらうしかないけど」


「ガーン!」


 セラは大げさに落ち込んだ顔を見せたが、こればかりはどうしようもない。


「力仕事なら任せてくれ。薪割りに荷運び、薬草採取の護衛、部屋の掃除や洗濯だって遠慮なく申しつけてほしい」


 ヒューガはドンと胸を叩いた。


「……洗濯は間に合ってる。わたしがするからいい」


「そんな遠慮をしなくたって――」


「遠慮じゃない。はぁ……ねぇ、神さま? どう思う?」


 ノエルはため息をついたかと思うと、ヒューガを視界の端にやりながらセラに問いかけた。


「残念ながらほぼ確で天然……余計タチ悪いよねぇ」


 ふたりは揃って深いため息をついたが、ヒューガには最後までその意味が理解できなかった。

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