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早すぎる身バレ

「つまり、あなたは王子でもなければ貴族ですらなく、異世界の大国の皇女さまに仕える騎士である……と」


 家主の少女は、ティーカップを傾け、自家製ハーブティーを一口含むと、今日雇ったばかりの身なりだけは大層立派な助手を一瞥した。


 セラの〝うっかり〟により太陽石からの現出という誤魔化しようのない超常現象を目撃されてしまったふたりは、観念して自分たちの身に起こったことを洗いざらい白状した。

 セラは最初こそ全てを打ち明けることに消極的な様子だったが、良心の呵責に耐えきれなくなったヒューガによって半ば強引に押し切られた形だ。


「…………」


 無言のまま申し訳なさそうに頷くヒューガ。

 ノエルの慈悲でそのままウッドチェアに腰掛けさせてもらっているが、否応なく対面の彼女と視線が合ってしまい余計気まずい。

 むしろ床に跪かされた方が、幾分気が楽だったかもしれない。


「で、そちらのどう見ても人間の子どもにしか見えないあなたが、彼の世界を司ってたっていう創造神の元女神さまで……」


 ノエルの視線が隣のセラに移る。


「…………」


 さすがのセラも余計な口は慎み、首振り人形のごとくコクコクと激しくうなずく。


「彼がうっかりあなたの双子の妹である女神を魔剣で斬り殺したせいで魔王が倒せなくなってしまった世界を救うために、その妹に奪われたっていう力を取り戻して創造神として復活するべく、トンチキな名前の同盟を組んで一緒に異世界の封印を解いて回る旅をすることになった……と」


 ノエルはカップを置いて目蓋を閉じ、深く息をついた。

 ふたりは緊張で同時に喉を鳴らした。


「寝言は寝てからどうぞ。……って言いたいところなんだけど、現にこの目で太陽石から出てくるのを見ちゃったのよね……。となると、その子が普通の人間じゃないことはこの時点で確定。最初はもしかしたら言語を操れるくらい高位の精霊かもって思ったんだけど、さすがそんな見るからに人間そのまんまの姿してフランクに喋る精霊なんて聞いたこともないし……」


 ノエルはまたハーブティーを一口含んでから、「はぁ……」と天井を見上げて嘆息した。

 ヒューガには、えらく面倒なモノを拾ってきてしまったという後悔の念のようにも感じられた。


「……騙すような真似をして、本当に済まなかった」


 そう言って頭を下げると、ヒューガはおもむろに立ち上がった。

 コートハンガーにかかったマントと立てかけられた2本の剣を掴み、セラに視線を向ける。


「済まないが、またしばらく素焼きの魚で我慢してもらうぞ」


 そう言って玄関に手をかけた。

 彼女も察して、後ろ髪を引かれるように振り返りつつも「う、うん……」と慌ただしく背中を負う。


「……ふたりとも、いったいこんな夜にどこ行くつもり?」


 ノエルは頬杖をついて、またしてもため息交じりに問いかける。


「事情があったとはいえ、私は君の厚意を裏切り素性を偽った。こんな不誠実で怪しい男を女性ひとりの家に留め置く道理はないさ。……ほんの少しの間だったが、親切にしてくれてありがとう。スープ、とても美味しかったよ」


 ヒューガは最後に深く一礼すると、今度こそ扉を開けた。


「……勝手に辞めていいなんて、いったい誰が言ったのかしら?」


 てっきり軽蔑の視線で見送られると思っていたヒューガは、不意を突かれて思わず後ろを振り向いた。

 ノエルは変わらず頬杖をついて、ジトーっとした蒼い瞳でふたりを見つめていた。


「騎士のケジメだかなんだか知らないけど、少しはわたしの立場も考えてほしいんですけど?」


「ノ、ノエル……?」


「わたし、さっき村長に男の助手を雇ったって報告してきたばかりなのよ? それなのに、その男に一晩で逃げられたなんて村のみんなに知られたら、いったいどう思われると思う?」


「あー……まぁ、間違いなくケダモノの本性を現したヒューガに()()()()()されて、そのままトンズラされちゃったって誤解してヘンな心配されちゃうよねぇ……」


 セラはまるで人ごとのような冷静さで予想を口にした。

 幼い容貌からはおよそ似つかわしくない言葉が飛び出し、ノエルは少し面食らったように瞳を瞬かせ自称元女神に視線をやる。


「……ま、そういうこと。あなたの潔さは認めてあげたいけど、こちらにも勝手にいなくなられたら困る事情があるの。本当に済まないと思ってるなら、どうせ行く当てもないのに村から出ていくなんてカッコつけてないで、冷めきる前にさっさとこれ、食べちゃってほしいんだけど。おかわり頼んでおいてお残しなんて、そっちの方がよっぽど失礼だと思わない?」


 彼女はテーブルに取り残された哀れなスープ皿を指差して言った。


「ノエル……」


 ヒューガには、やはり彼女こそが本当の女神のように映って見えた。


「それに異世界からの来訪者なんて危なっかしい存在、このまま『はいそうですか、さようなら』って黙って見過ごすわけにもいかないでしょう? 一度拾ってしまったからには、当面わたしが責任持って目を光らせておくしかないじゃない……」


 もう何度目かもわからない、可愛らしいため息。どうやら彼女の癖のようだ。

 

「し、信じてくれるのか!?」


「自分で言ったんでしょう? ……それとも信じてほしくないの?」


「滅相もない!」


「べつに、いきなり全部信じようってわけじゃないの。太陽石から飛び出してきた不思議な女の子に、見たこともない赤い髪の凄腕剣士なんておとぎ話みたいな組み合わせ……神さまと異世界人ですって言われたら、まぁそのくらい突飛な方が一周回って真実味あるかもって思っただけ」


「それに、ごまかすにしたって普通はもう少し信じてもらえそうなまともな嘘つくはずでしょう?」と苦笑すると、ノエルは立ち上がって台所の方に向かってしまった。


「少し待っててちょうだいね、神さま。今あなたの分も用意するから」


 いったい何のことかと隣に視線を向けると、そこには待てを言いつけられた子犬のような顔でテーブルのスープ皿を凝視し続ける元女神の姿があった。


 ――途中から妙におとなしいと思ってはいたが……いや、あの手料理を前にすれば無理もないか。

 

 ヒューガは相棒の見てくれどおりの子どもみたいな姿にすっかり気勢をそがれ、耳の尖った女神の「あなたも温め直す?」という慈悲の一言(ダメ押し)によって家出を断念するのだった。

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