ゴロツキを蹴散らし少女を救う
「何度も言ってんだろうが、ここは通り抜け禁止だ! あんまりしつけぇと、ちぃーっとばかし痛い目見てもらう羽目になるぜ、嬢ちゃんよぉ?」
「わ、わたしは泉の薬草を取りに行きたいだけ。村のみんなが必要としてるの。お願い、通して!」
「こんだけ言っても聞かねぇってんなら、マジで痛い目見てもらおうじゃねえか、アァ?」
「グヘヘ、こんだけ若くて上玉となりゃ、いっそひっ捕まえて高値で売り飛ばしちまうって手もあるよなァ?」
「イヒヒ……オ、オレ、売り飛ばす前にちょっとだけ味見してみてぇな」
「っ……!」
――女性ひとりを取り囲んで卑劣な真似を……!
ヒューガが茂みから様子をうかがうと、突き飛ばされたのだろうか、尻餅をついた若草色のローブに身を包む魔道士風の女が、いずれも人相の悪そうな五人の男たちに囲まれていた。
ゴロツキ、あるいは山賊といった呼び名が相応しい無法者の類い。世界が違っても、そういう連中はどこにでもいるということなのだろう。
(そんじゃまっ、ヒューガ、君のお手並み拝見ってところかな。――あ、もうこの際助けるのはなんも言わないけど、アイツら斬っちゃダメだよ? 人の生き死は世界にとっても大きな影響を与えるんだ。下手なことやって、うっかりこの世界を司る神の目にでも留まったら面倒だからね)
――この元女神は、私を誰彼構わず剣を抜く人斬りか何かと勘違いしている節があるのではないか……?
(言われずとも承知している)
「あぎゃッ!?」
言いながら放った石礫が、女に掴みかかろうとしたゴロツキの眉間に命中した。
「な、なんだ――べふらッ!?」
すかさず茂みから駆けだし、一気に間合いを詰め、間抜け顔で振り向いた男を鞘に納まったままの剣で殴りつける。
「や、野郎! いったいどこから――んごッ!?」
「て、テメエなにしや――ふびゃッ!?」
猛然と襲いかかる大柄な男の懐に入り込んで鳩尾に拳を叩き込み、同時に後ろから棍棒を振り上げる小柄な狐目の顎を蹴飛ばし昏倒させた。
「貴様で最後か?」
「ひっ……オ、オレたち、べつにそんなつもりじゃ……い、いいいっ、命だけはお助けをーッ!!」
盗賊狩りの賞金稼ぎとでも勘違いしたのか、最後に残った頭の寒々しい痩せぎすの男は、すっかり戦意を喪失して地面に頭をこすりつけた。
「『そんなつもりでは』……だと? ならば早々に失せろ、二度目の慈悲はないと思え」
鞘から剣を半分抜いて眼光鋭く睨みつけると、倒れていたゴロツキたちは驚くほど素早く跳ね起き、「覚えてやがれぇ!!」と世界共通の捨て台詞を吐いて、ところどころ石畳の割れた旧い街道を走り去っていった。
(さっすが、お姫様の護衛騎士! 斬る斬らない以前に、剣なんか抜く必要もなかったね。お芝居がかった脅し文句も含めて百点満点あげちゃうぞっ♪)
(……茶化すな。さすがの私も、今のは少々恥ずかしいと自覚している……)
同時に、ああいう軍属でもなければ傭兵の類いでもない、命の覚悟を持たない半端者には効果的な脅しであるのも事実だった。
――それよりも、だ。
ヒューガは剣を腰に戻して振り返ると、へたり込んだローブ姿の女に手を差し伸べた。
フードに隠れて顔は窺えないが、先ほどの声からしてだいぶ若い印象を受ける。
「怪我はないかい、マドモアゼル?」
(まどもあぜるぅ!?)
(……少し黙っていろ)
「……ええ、大丈夫。ありがとう、おかけで助かったわ」
彼女はそう言ってヒューガに手を引かれ立ち上がると、フードに手をかけつつ礼を述べた。
神秘的な銀色のセミショートがふわりと踊り、どこか物憂げで儚い印象の中にも凜とした芯の強さを秘めている、そんな相反するものを同時に感じさせる美しい少女の顔立ちが露わになった。




