太陽石の中から
「そういえば、セラ。ずっと気になっていたのだが、その腕輪の宝石……私の見間違いでなければ、おそらく太陽石に見えるのだが……」
転移から4日目も陽が傾き始めてきた頃。今日も今日とて日の出とともに川沿いを歩き続けるものの、人里に当たる気配はやはりない。
相も変わらず代わり映えのしない広葉樹林に辟易としてきたヒューガは、気を紛らすようにたまたま目に入った相棒の装飾品について尋ねた。
セラの左腕のバングルに輝く、彼女の髪色にとてもよく似た温かみのある金色の宝石が、日の光を反射して一際存在感を放っていた。
「おっ、大正解! さすが宮仕えの近衛騎士くんはお目が高いね」
セラはわざとらしく顎に手を当てて、値踏みするような仕草でヒューガを見上げた。
「やはりか……。太陽石といえば、私の世界ではとんでもなく高価な宝石として、王侯貴族や大商人たちの富の象徴として珍重されていたが……もしや、他の世界では存外そう珍しいものでもなかったりするのか?」
「まっさかー。これ1個あれば、庶民なら余裕で一生暮らせちゃうくらいのレア物だよ」
「なぜそんなものを……? お前、意外と成金趣味なのか?」
「あははっ、違うよ。そうだなぁ……説明するより実際に見せた方が早いかも」
そう言うと、セラは外したバングルをヒューガに差し出した。
「はい、左腕につけてみて」
「う、うむ……」
平民騎士の自分などには一生縁遠いと思っていた代物を前に、ヒューガは緊張の手つきでバングルを受け取る。
セラの細腕に巻かれていたものが自分の腕に嵌まるのかと不安だったが、バングル自体が弾力性に富んだ不思議な金属でできているらしく、問題なく装着することができた。
「これでいいのか?」
「オッケー♪ それじゃ、よーく見ててね」
そう言ってセラが腕輪の太陽石に触れた瞬間、彼女の身体が白く輝き――忽然と姿を消した。
「っ!?」
唐突な出来事にヒューガは慌てた表情で辺りを見回すが、やはり彼女の姿は見当たらない。
――いったいどこへ……?
(ゴメンゴメン、べつに驚かすつもりじゃなかったんだよ)
突然、ヒューガの頭の中に直接語りかけるようにセラの幼い声が響いた。
「お、おい! どこにいるんだ、セラ!?」
(ココだよ、コ・コ! 左腕を見てごらん)
「まさか……太陽石の中に!?」
驚きの表情でバングルを見つめると、黄金の中石が先ほどよりも一層深い色合いで輝いていた。
(正解! 実はこれ、太陽石を細工して作ったボクの緊急避難用シェルターなんだよ。野生の魔獣なんかに襲われそうになったとき、とりあえずこの中に隠れてどっか行ってくれるまでやり過ごすための、一種の魔道具だね)
「神の力を失ったお前が下界で生き延びてこれたのは、この腕輪のお陰でもあるというわけか」
(そーゆーこと。それと、これにはもうひとつトクベツな機能があって……ヒューガ、声に出すんじゃなくって、頭の中でボクに喋りかけるように言葉を思い浮かべてごらん)
「――は?」
(いいから、いいからっ! 騙されたと思ってやってごらんって)
(おい、セラよ。……こ、これでいいのか?)
(バッチリ、バッチリ♪ こうやって、腕輪を付けてる人は太陽石の中にいるボクと秘密のおしゃべりができちゃうのだっ!)
なんとも妙な気分だった。ヒューガが昔組織にいた頃、《精神感応》という、遠く離れた相手の脳内に直接意思を送り、そして相手のそれも受け取ることができる異能の存在を耳にしたことがあったが、もしかしたらこのような感覚なのかもしれない。
(……なるほど。では、これからこれは私が装備した方がよさそうだな。今後何か危機が訪れたら、お前は迷わずこのバングルの中に隠れろ。あとは私がどうにかその場を切り抜け――)
「きゃあっ!」
突如、声のない会話を切り裂くように、そう遠くなさそうなところから女の悲鳴が上がった。
セラ以外に聞く、久々の人の声だった。
(あちらの方からだ、行くぞ!)
ヒューガはそう言う間もなく、声のした方へと駆け出していた。
(行くって、もしかして助けに行く気!?)
(当たり前だ! 人の悲鳴を聞いて駆けつけないなど騎士の名折れ、姫に合わせる顔もなくなる)
(ちょちょちょっ、ちょっと待って! ボクたち《箱庭》の外から来た存在……つまり、この世界にとっては完全な異物なんだよ? そんな連中が勝手に人助けなんかしたら、この世界にいったいどんな影響が出るか――)
(ではお前は、誰かの悲鳴を聞こえぬふりで通す薄情者と旅を続けたいとでも言うのか?)
(う……そ、それ言われると弱っちゃうんだよなぁー……あーもうっ!! わかったってば! でも助けるって言ったからには、ちゃんと責任持って助けてあげるんだよ? 中途半端、ダメ絶対)
(無論だ)
彼女ならばきっとそう言ってくれるだろうという確信のもと、少し意地の悪い返しだったと自覚しつつヒューガは足を速めた。




