姫君は家族から愛されない
物心ついた時からすでにわたくしは独りでした。
父はわたくしに目も向けず、
母もわたくしよりも宝石やドレスに夢中でした。
兄妹達はわたくしを疎んで姫とは
思えないような扱いをされました。
友達も家族もいない、孤独な毎日を誤魔化すように
図書館に入り浸り、本の世界に没頭することで
寂しさを和らげていたんです。
10歳になる頃には既に図書館にあるすべての本
を読み終えてしまい、暇を持て余していました。
そんなある日、見慣れない黒い本が
本棚にあったのです。
その題名を見てわたくしは強く興味を惹かれました。
『魔王ディオン』
魔国の存在は知っていましたが、
謎に包まれた魔族のことは殆ど知らないわたしは
興味本位でページをめくりました。
すぐに物語に引き込まれました。
国を滅亡させた伝説の魔王が
どのようにして生まれたのか、
どんな人生を歩んできたのか、
その全てがこの本の中に詰まっていました。
会ってみたい。
孤独な魔王様と孤独な姫。
きっと、分かり合える。
物語のような後世に語り継がれる
愛を紡げるのではないかと夢を見ていました。
ですが、魔王妃エルファ様の存在を最近知りました。
ディオン様は、エルファ様を心から愛していると
知った時、絶望に突き落とされました。
涙が止まらなくて、その日は眠れませんでした。
わたくしはディオン様に愛されないのだと。
でも、次の朝を迎えた頃にはなんだか
腹が立ってきたのです。
あれから120年も経ったというのに
ディオン様はいつまで十字架を
背負った気でいるのだろう。
悲劇のヒロインを気取っているのだろう。と!
だから、わたくしは決意したのです。
「わたくしが、貴方の憂いを祓う。
貴方にとってのエルファ様で居続けると!!」




