姫君と魔王
「エルファっ!!!!!」
呼吸を荒げ、天に手を伸ばしたところで
ディオンは自分が寝室にいることに気づいた。
「ディオン様、大丈夫ですか??
ひどくうなされていましたが……」
ミレイユが心配そうに形の整った眉を八の字にする。
「あ、ああ。大丈夫だ。
……それにしても、どうして姫がここに?
まさか、寝込みを……」
「そんなことしませんっ!!
わたくしは、倒れた
ディオン様に付き添ってただけですわ!!」
プクーっと頬を膨らませるミレイユに
思わず苦笑する。
「……ディオン様。
エルファ様の夢を見ていたんですか?」
その切なげな声にディオンから表情が消える。
「姫には関係のない話だ」
氷のように冷たく言い放ち、突き放す。
「関係あります!!」
ミレイユはディオンの腕を
掴み潤んだ瞳を彼に近づけた。
「わたくしはっ!!
ディオン様が好きです!!
例え、ディオン様が他の女性を忘れられずにいようと
『好き』だって気持ちは消えないんですっ!!」
その一生懸命な訴えにディオンの心は揺らぐ。
なぜ、わたしのような者に好意を向けてくる。
そんなミレイユとエルファが重なって見えた。
「わたくしだって辛いです。
ディオン様を見ているのがすごく辛いです」
涙を流すミレイユに心が締め付けられた。
「ならば、アルフィリアに帰りなさい。
わたしは、貴女の想いに応えられることは
一生ないのだから」
その答えにミレイユの堪忍袋の緒が切れる。
「あーーっ!!
もう、どうしてディオン様はいつもそうやって
壁を作るんですか!?
想いに応えられないって決めつけるんですか!?
そもそも、いつまでエルファ様への後悔の念を
引きずってるんですか!?」
そんなミレイユにディオンも苛立つ。
たかが他国の姫君に何がわかる。
「姫にはわからないだろうな!
宮殿で幸せに暮らしている温室育ちの姫には!!」
ミレイユは大きく目を見開き、歯を食いしばる。
「……ええ。
分かりませんよ。温室育ちのわたくしには
ディオン様の苦しみなんて、
分かりませんよ!!
でも、わたくしは……
誰からも愛されない姫なんです」
その発言に、ディオンは怒りを忘れて
ただ、泣きそうなミレイユを見つめることしか
できなかった。
「わたくしは、王とその愛人の
間に生まれた姫でした」




