ショートコント:高額バイト⑥
ショートコント:高額バイト⑥
【登場人物】
面接官(40代、目の下のクマは日本の闇を物語っている。なぜか声だけは通る)
主人公(20代、ちょっと天然でツッコミ役)
【場所】
夜のファミレス。テーブルの上には冷え切ったコーヒーと、一冊の「婚活マニュアル」。
面接官:はい、こんにちは。写真と違いますね…いや、写真よりもっと良い。これならいけます。なんなら、めちゃタイプですよ。ホント。
主人公:あ、ありがとうございます…。
面接官:失礼ですが、カップどれくらいですか?
主人公:え?カップですか?えっと、Cですけど…。
面接官:なるほど…まぁ、パット入れましょうか。
主人公:え!?
面接官:で、仕事ですが、お見合いパーティに出て、金持ちの男とカップルになってもらいたいのです。これは、孤独な男を救う、立派な仕事ですからね。
主人公:え、立派な仕事なんですか?
面接官:はい。孤独に寄り添うのですよ。趣味は何ですか?
主人公:えっと、カフェ巡りとか、SNS映えする写真を撮ったり…。
面接官:ダメです。料理です。得意じゃなくてもいい。男は、手作り料理に弱いからね。
主人公:え、なんでですか!?
面接官:(マニュアルを指差し)付き合ったら、私が作って、私が持っていきますから。その方が、あなたの演技に集中できますよね。
主人公:演技……。
面接官:これね、基本は**「演技」**の仕事です。大袈裟にとことん褒めて、上げて、奉ってください。なんだか、宗教みたいになってきましたね。
主人公:え、私、信者になるんですか?
面接官:で、そこから3ヶ月、お付き合いごっこ。相手の趣味に合わせるんです。あなたの好みは必要ありません。共通の話題は、全てこっちで用意します。
主人公:でも、相手も合わせるフリしてるかもしれないですよね?
面接官:当たり前じゃないですか。みんな人生の舞台で役者ですから。戦いですよ。食うか食われるか。そして、ここからが本題です。3ヶ月ほどしたら、結婚をほのめかしてください。
主人公:はい。
面接官:そして、「家族が急に入院することになってしまって。お金がなくて困ってるの」「あなたがいないと生きていけない」って相談。男性はきっと「俺がどうにかしないと!」と思って、ついお金を出してしまうでしょう。女の弱さを見せてね。男も頼られたいんですから。褒めて、頼って、そして……。
主人公:なんというか、人生って残酷ですね。
面接官:そうですか?喜ばせて夢のような時間の対価としてお金をもらう。これが、あなたの頑張りに対する対価ですよ。立派なものです。
主人公:……いや、やっぱり立派ではないと思います。
面接官:あ、そうそう。身元は全てこちらで用意します。アパートも、友人、家族、全てね。
主人公:え?それって……。
面接官:大丈夫ですよ。劇団出身のめちゃくちゃ性格の良い人ばかりですから、安心してください。
面接官:で、お金をもらったら、あ、あ、やっぱり恥ずかしいな。えっと……、あなたは私と結婚して、そして消えましょう。
主人公:え!?私、面接受けに来ただけなんですけど!
面接官:はい、次の方。
(次の面接者が入ってくる)
次の面接者:こんにちはー!
面接官:(顔を上げ、冷たい目で一瞥する) ……いや、ちょっと肌のツヤが。本日の面接は終了しました。帰ってください。
次の面接者:え?
主人公:え、なんで追い返したの!?
面接官:うるさい。さっきの子はタイプじゃないんだよな。あなたはもう、うちの家族なんだから。
(舞台暗転)