冒険者
かつて魔王を倒した勇者が率いる冒険者たちは、英雄として称えられた。
やがて、平和な世界が訪れ、人々の新たな生活が始まった。
故郷へ帰る者。
新たな旅へと旅立つ者。
恋人が待つ村へ向かう者。
月日は流れ、現代。
冒険する者。冒険しない者。
それは人それぞれ自由である。
私は、喜寿をすぎた。
地道に仕事をして、生活するだけの稼ぎで精一杯だったが、健康で笑顔いられることや、日常の小さな幸せに感謝しながら、妻と細々と暮らしている。
この歳になって、つくづく実感していることがある。冒険とはつまり、魔王を倒したり、この世界を旅することだけではないのだ。
人は皆、人生の冒険者だ。
結婚というものも、とてつもない冒険だ。
ふたりで山を越え谷を越え、生きてきた。
私は、思う。
こんな私を選んでくれた私の妻。妻こそが冒険者であり、勇者なのであると。
最期まで、私のそばにいてくれて、ありがとう。