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第6話 忍

 チャイムが鳴る。今日の授業の終わりを告げる。


 ああ、終わった。どうしよう、お腹が空いたな。朝ごはん、食べそびれちゃってたから。休み時間に何か食べた方が良かったかな?でも、食べちゃダメだったかも知れないし、勝手に食べたら怒られたかも知れないし。だから我慢してしまったけど、この体、凄くお腹が空くな。今から食べても良いかな?鞄の中にお財布はある。お金もある。それでパンでも買って食べようかな。でも大丈夫かな?良いのかな?


 そうだ、彼女に聞いてみよう。彼女なら正しい事を教えてくれる筈。


 僕は斜め後ろを見た。一之瀬夏乃がいる。光っている。綺麗だ。彼女が居てくれれば、僕は僕でいられる。


 いつも通りの綺麗な顔。僕は彼女が好きだった。恋人がいるのは知っている。生徒会長の磯野流喜。もうずっと長く付き合っている。


 あいつより先に出会っていたらな。そしたら・・・いや、ダメだったかな?僕なんかじゃ。頭もそんなに良く無いし、運動も出来ないし、顔も標準以下だし、リーダーシップも何も無いし。


 何も出来ない僕。


 お腹が空いても1人で何も食べられない僕。


 こんな僕じゃ。



 彼女の所に磯野が来た。一緒に帰るのか。ああ、行ってしまう。僕とは釣り合わないんだから仕方が無い。サヨウナラ。


 でも良いの?


 磯野の中には『アイツ』がいるみたいだよ?


 ひょっとしたら、帰り掛けに殺るの?


 良いのかな、『中身』と『外身』、分けて考えなくて良いのかな?


 聞きたいけど聞けない。ああ、行ってしまった。サヨウナラ。



 僕は1人、黒板を見詰める。教室からは皆んな出て行く。


 僕も帰ろうかな。家は何処だっけ。ああ、寮だ。


 教科書、ノート、持って帰らないと。勉強しないと。


 机から出して鞄に入れようとする。でも、上手く入れられずに床にバラバラと広がってしまった。


 ああ、散らかしてしまった。どうしよう。怒られてしまうかな。


 僕は頭を抱えた。


 頭が痛い。喉が渇いた。お腹が空いた。


 光は、行ってしまった。どんどん、分からなくなる・・・。


 どうしよう、どうしよう、どうしよう・・・。



 教室には誰もいなくなった。僕は座ったまま動けない。


 後のドアが開いた。そこから僕の光が入って来た。


 ああ、明るい。明るくて綺麗だな。


「やっと見つけた。探したのよ」


 あの子は、1年の須田愛海ちゃんだ。芸能人の。可愛い。愛海ちゃんが、僕の光。


 僕は彼女の元に駆け寄った。僕より背が低い。小さい・・・。


 目の前で少し立ち止まる。首を傾げる愛海ちゃん。


 僕は、膝を付いて彼女の両足に縋り付く様に抱き付いた。


「会いたかった。僕の光・・・」


 スカートに頬を擦り付ける。


 愛海ちゃんは、僕の顎を左手の指で持ち上げる。見上げる僕の目を見詰めながら、右手の指を僕の左頬に立てる。


 鋭い爪が頬に食い込む。


 痛い。


 痛みに顔が歪む。目に涙が滲む。


「痛い・・・」


 傷付いた頬から血が流れる。愛海ちゃんは屈むと、その血に舌を這わせる。傷口を舐めて消毒してくれる。嬉しい。声が漏れる。


 愛海ちゃんの後ろには、2人の男子生徒を筆頭に10人位の生徒が控えていた。全員が僕達に首を垂れ跪く。全員知ってる。子供達だ。


「マリカ・・・」


 彼女の名を呼ぶ。そうだ。彼女の名前は『マリカ』。人間が名付けた最強の災厄。


 愛海ちゃん、「マリカ」が僕を優しく見詰める。


「何?」


「僕、お腹が空いたんだ」


 僕がそう言うと、マリカは僕を立たせる。僕の方が背が高い。


 自分のウエストよりも高い位置にある僕のウエストを抱える様に抱いて、彼女は僕をエスコートする。


「ならば、食堂を占領しようじゃないか」


 全員が立ち上がる。マリカを先頭に、僕等は食堂へと歩き始めた。

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