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第12話 愛海2

 ボールペンをノックしてペン先を出したりしまったり、繰り返しながら図面を見詰める。


 机の上に広げられた学園の見取り図。食堂から3年教室、特別教室の並び迄がチェックされている。


 占領の印。


 反対側、体育館から1、2年教室と、その向こう側、中等部棟には印が無い。


「難しい顔。マリカ困ってる」


 唐揚げに爪楊枝を刺して、正面から3年の長野忍が話しかけて来た。


 私の可愛い子。


「状況が分からない」


 答える私に、横から1年の女子が頭を擦り寄せて来る。


 先程、食堂に来た際に手に入れたばかりの子だ。


 長野忍が空腹を訴えた為、食堂を占拠しようと訪れると、そこに居た。


 6人の、うちの子では無い非戦闘が入った人間に守られて、食事をしていた。


 床に座って、手掴みで、只々白米を食べていた。


 余りにも不憫な様子に呆れ、保護した。


 私の側近が軽く威嚇しただけで、その6人は壁側迄下がり、しゃがみ込んで震え出した。おそらく『ジーナ』の子。気配でそれが分かる。紐で縛って隅に置いているが、反抗する様子も無くボンヤリしている。


 横の1年女子は、勧められるままに動いた。


 行儀良く席について食事するよう注意すると、大人しく従って食べ始めた。箸やフォークの使い方も分からなくなっていたので、手取り足取り教えてあげた。


 ただそれだけで、私に懐いた。


 懐く事に不思議は無い。本来そういう生き物だから。その点では、領寺沙奈は異常だ。


 領寺沙奈を頭に浮かべた途端、先程の事を思い出す。私は歯の抜け落ちた歯茎に舌を当てる。出血は止まったが、まだ熱を持って腫れ上がっていた。


 抜け落ちた歯は再生しない。不便な体だ。


 その上、死に損ない如きに殴られて気絶するとは。我ながら情け無い。領寺沙奈を前にして反応が鈍ったわ。


 その時の事を思い浮かべながら息を吐いた。


 それはさておき。


 壁側の6人を見る。抵抗が無過ぎる。私の子は、非戦闘員でももっとしっかりしている。この様な扱いを受ければ当然抵抗する。


「ジーナが側に居ないから、腑抜けになっちやったね」


 長野忍が言った。


「どういう事?」


 私は聞いた。


「マリカは、自分が女王だから気付かないんだよ。()()()()()()()()()()(?)は、女王以外の僕等はさ、女王が側に居てくれないと、存在が弱くなるって言うのかな、限りなく小さくなる感じ」


 言いながら長野忍は1年女子を爪楊枝で刺した唐揚げで指す。


「その子はマリカに会うまでどの女王にも近付けなかったからもう、これくらい」


 唐揚げと反対の手の親指と人差し指で輪を作って見せた。輪の中からこちらを覗く。


「彼女はまだ良いよね、()()()()だから。マリカが居れば大丈夫。でもあっちの6人はさ、自分の女王じゃなきゃダメなんだ。()()()()()()()()。もう少ししたら、体の持ち主が出て来るよ。消えはしないけど、もう抑え付けてコントロール出来なくなる」


 そういう物なのか。


「人間達はどうだか知らないけど」


 言って、唐揚げを口の中に放り込んだ。


 1年女子は、私のウエストにぎゅっとしがみ付き、幸せそうに目を閉じる。


 私は彼女の肩を抱いて、ボールペンで見取り図の中等部棟を指す。


「なら、私のもう1人の可愛い子とジーナはここかしら」


 恐らく体育館と1、2年教室は、人間達が押さえているのだろう。今の話が本当ならば、私と離れていた子供達は簡単に捕らえておける。


「もう1人は分からないけど、ジーナはそこじゃ無い。学校の外に行ったよ」


「ほう・・・」


「一之瀬夏乃がジーナだよ。僕の斜め後ろの席なんだ。一之瀬夏乃凄いね。多分ジーナを拒絶したんだ。ジーナは彼女を上手く支配出来てなかった」


 言いながら思い出したのか、クスクスと笑う。


 私は聞きながら、『上手く支配出来ない』という事がよく分からなかった。そもそも、『支配』とは?と思ってしまう。今の『私』は『須田愛海』であり、同時に『マリカ』だ。


「磯野流喜と一緒に帰って行った。笑っちゃうよね。磯野流喜が市長(メイヤー)だよ。今頃殺し合ってるかも。2人共死んじゃってたりして」


 私の思考とは関係無く長野忍が続ける。一旦考えるのを中断して、頭の中に、生徒会長とその彼女である一之瀬夏乃の顔を思い浮かべた。


 あの2人は有名人だ。私の様に芸能活動をしているという訳ではなく、この学園の中では、という事だが。


 お似合いのカップルとして、学園中の生徒達の憧れの的なのだそうだ。反吐が出る程気味の悪い話だ。


 清廉潔白な優等生面した奴は嫌いだ。


 しかし・・・。


 殺し合い云々は別としても、そういう事ならば人間共は指導者不在では無いか。小娘相手ならば楽勝。


 私は、長野忍の頭を撫でた。良い子だ。とても役に立つ。


 嬉しそうに目を細める長野忍。可愛い子。


「ジーナが居ないのなら、ここには・・・」


 私は中等部棟の部分をトントンと叩く。


 どの程度の規模で、()()()から()()()へと()()()()のかは分からない。もし()()()に来ているのならば、我等が宿敵が巣食っている。そう考えて間違いないだろう。


 『リリアナ』


 最古の女王。年寄りの婆。視力も失った盲目の古参。


 腹立たしいあの女。今でも耳からあの女の声が離れない。


『マリカ、お前のやり方には賛成出来ない。手を引かないなら消す』


 この私に向かってそう言ったのだ。1番若く、1番強い女王であるこの私に。


 そうだ。きっとアイツのせいだ。今起こっている、この不可解な()()()での状態。アイツが何かやったに違いない。


 お前なんかにこの私が消せるものか。何の目的で何をしているのかは知らないが、逆に私がお前を消してやる。


 その為にはまず・・・。


 体育館から1、2年生の教室の並びを見る。


「人間達の巣食うルートか。アスランが邪魔だ」


 (シティ)の警備隊の隊長、アスラン。特異体質だか何だか知らないが、我等の甘い匂いが通用しない男。


 他の人間共が中に入った者に、我等の甘い匂いは有効だった。が、あの男に限っては、こちらの世界でも効果が無いかも知れない。


 しかも剣道部主将に入るとは・・・。


 高嶺スバル。彼が剣道部に入部して以来、この学園の剣道部は負け知らずだという話だ。高嶺スバルが試合で戦っている姿を私自身も何度か目にした事がある。他の生徒とはレベルが違うのが素人目にもよく分かった。


 相手を見据え、無駄なく最小限の動きで終わらせる。


 中身も外見も厄介だ。


 けれども、人間は心弱い所のある生き物。手段が無い訳ではない。


「・・・誘き出してみるか」

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