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婚約破棄されたので就活を始めたら、超絶ホワイトな隣国に引き抜かれました 〜その婚約破棄には、相応のリスクがある〜  作者: 鷹目堂


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11.新しい職場が厚遇すぎる

 しばらく嫌だ嫌だと喚いていたティナは、宮廷に入ったあたりで抵抗するのを諦めた。


 どう頑張っても解放してくれそうになかったからだ。そんなわけで(渋々)覚悟を決めたティナは、地面に降ろしてもらったあとパーシヴァルの案内で宮廷内を歩いていた。


「──それで、結局『宮廷学者』ってなんなんだ? ティナはここで何をすればいい」


 道中クロが尋ねると、パーシヴァルは「ああ」と一つ頷く。


「宮廷学者ってのは、宮廷お抱えの学者だ。研究で国に貢献してもらう代わりに、うちで研究の支援をしてる」

「し、支援……?」

「そう。研究費用を出したり研究室を提供したり、必要なものをこっちで揃えてやったりするんだ」


 つまり、国に認められた学者ということである。スケールの大きすぎる話にティナは震えた。確実に自分が受けていい話ではない。


「ほお……学者如きに随分と厚遇なんだな?」

「ああ、国を発展させるのは学問だからな。そこへの投資は惜しまない──というのが、皇帝陛下のお考えだ」

「こ、こうていへいか……」


 またとんでもない名前だ。ティナは更に震え、さあっと顔を青ざめさせた。


(わ、わたしが大した成果を上げられなかったら、『役に立たない奴はいらない』とか言って怒った陛下に処刑されちゃうんじゃ……)


 ヴァンタール帝国には詳しくないが、王族や皇族って小説の中だと大体怒りっぽいイメージだ。


 そして、小説の中では大抵ティナのような奴は処刑される運命にある。ティナはまた泣きそうになった。


「つっても、そこまで重く考えなくていい。お嬢様は魔法生物関連の事件や問題に口を出すだけでいいんだ」

「あ……そ、そういえば、そんなこと仰ってましたね」

「確か帝国の各地で魔法生物に関する問題が増えているんだったか? 全く動物というのはどこへ行っても面倒を起こしてばかりだな」


(クロがそれを言うんだ……)


 遠い昔、村を焼いて人を困らせていた竜とは思えない発言だ。パーシヴァルは真面目な顔で続けた。


「ああ。今帝国では、魔法生物による被害が社会的な問題になってる」

「…………」

「もうみんな困り果ててるんだ。中には過激な思想の奴もいて、魔法生物は無差別に殺せって意見もある」

「そ、それは……」


 魔法生物を愛するティナには悲しい話だ。どの子も触れ合えばきっとわかりあえるのに、向き合わずに殺すなんて信じられない。


 思わず表情を曇らせたティナに、パーシヴァルは困ったような顔で笑いかけた。


「そうならないために、帝国はお嬢様の力を欲してるんだ」

「……そ、そうですか」

「ああ。俺は国と魔法生物を救うために君を宮廷学者に選んだんだ。……協力してくれるだろ?」

「うっ……」


 そんな純粋な眼差しで見つめられては、内気なティナは拒否できない。


 ティナはしばし躊躇い、しかし結局小さく頷いた。途端にパッと顔を明るくさせるパーシヴァルに、クロが不満げに眉を寄せる。


「で、でもっ……! 大したことはできませんし、あんまり期待もしないでくださいっ!」

「へえ、随分と弱気だな。フェンリルの件で君に期待しないわけがねえんだが」

「いやいやいやいやいやっ! あ、あれはたまたまそういう知識があっただけで……!」


 あまりプレッシャーをかけられても困る。慌てたティナをひとしきり笑うと、パーシヴァルは改めて様々なことを説明してくれた。



 ヴァンタール帝国には、現状3人の宮廷学者がいるらしい。


 3人はそれぞれ専門分野が違い、各方面で研究を行っているそうだ。魔法学、考古学、魔法工学ときて、4人目のティナは魔法生物学を専門にすることとなる。


「宮廷学者にはそれぞれ、離宮の方に研究室と生活用の部屋が与えられているんだ」


 そう言い、パーシヴァルは同じ敷地内にある離宮の方向を見やった。


「当然、君にもだ。お嬢様のことだから離宮に住むのは気が重いだ研究室なんて受け取れないだ言い出すんだろうが、改装工事は既に終わってるから拒否権はねえ」

「ひ、ひぇ……」


 この短期間で本質を見抜かれている。クロの呆れたような視線に刺され、ティナは肩をすくめた。


「ふ、そこまで恐縮するな。君のために用意したんだから、君に使ってもらわねえと困る」

「で、でも……」

「でもじゃない。とにかく君のためになる部屋にしたつもりだ、設備に不満があれば俺に言ってくれ」

「………………はい」


 手厚すぎて恐ろしい。もう逃げられないことを悟り、ティナは細く細く息を吐いた。


(うう、逃げたい……。でもやるって決めちゃったし……)


 それに、ここでやめてもまた厳しい就職活動が始まるだけだ。ティナが渋々腹を括っていると、クロがつまらなさそうにひとつ鼻を鳴らした。


「それで? 僕たちは一体どこに向かわされているんだ。もう長いこと歩いてるんだが」


 そういえばそうだ。宮廷に足を踏み入れて10分は経つが、未だにどこを目指しているのか聞かされていない。


「ん? ああいや……まずは責任者に会ってもらおうと思って」

「責任者だと?」

「ああ。簡単な入職手続きみたいなもんだから気張らなくていい」


 なるほど、確かに上司と顔を合わせずに仕事をするわけにはいかない。社会人とはそういうものだ。


「えと……その『責任者』って誰になるんですか? 他の宮廷学者さんですか?」


 とはいえ、人付き合いの苦手なティナにとっては上司への挨拶など憂鬱で仕方ない。


 また気分が落ち込むのを感じながら尋ねると、パーシヴァルはしれっと言った。


「いや、皇帝陛下だ」

「こ゛ッ──」

「今から陛下に謁見してもらう」


 前言撤回。こんなところで働けるわけがない。

 瞬時に判断し、ティナは回れ右をして逃げようとした。


「おい、どこ行く」

「ひぐぅっ!」


 が、猛スピードで伸びてきたパーシヴァルの手に襟首を掴まれ、ずるずると元の場所に戻される。


「い、いやぁあっ! 無理です無理ですいきなり皇帝陛下に挨拶は無理ぃっ!」

「だから無理じゃない。ちょっと頭下げりゃいいだけだ」

「ふ、不敬罪で処刑されるーっ!」


 ここで死にたくなんてない。決めた覚悟を早くも折って泣くティナに、クロがため息を吐いた。

次回から初めてのお仕事始まります!

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