・・・きついわ
リンは部屋に行くと、ラフな普段着に着替える。
服は上が無地の半袖Tシャツ、下は七分丈のジーンズ。
本当はスウェット着たいけど。
リンはそう思うが、思春期女子にはハードルが高いようだ。
リンは無意識のうちに、クーにおしゃれしてない自分を見られたくないと感じていた。
リンは気づいていないが、クーを意識してるという事だろう。
「さて、行くかな。」
リンがリビングに降りると、上下黒いジャージ姿のクーがソファーに座ってじっとしていた。
クーは何をしていれば良いのか分からない感じで、床の絨毯を見つめながら小さくなっていた。
エサを我慢してる子犬ですか?
リンは思わず、あるはずの無い犬の耳としっぽがクーの頭やお尻の辺りから生えてる姿に見えてしまい、思わず吹く。
「プッ、ク、蔵人くん。子犬みたいになってるじゃん。」
「え?い!いや、」
クーはリンの姿を見ると、犬の耳は下がったまま、でも、しっぽを振っていた。
リンの姿を見て、「やっと来てくれた!」というような様子だった。
私はクーの飼い主じゃないぞ!
とリンは心の中で突っ込む。
「リン、さん。足、大丈夫?」
「痛いけど、家の中、歩く分には良いかな。」
「無理しちゃダメだよ?明日、病院行きなね。」
「分かった、分かった。クーって私のお母さんか!って感じだね!」
クーとリンが話していると、台所からリンのおばあちゃんが、
「リン!蔵人くん、お風呂入ってもらって!下着はおじいちゃんが渡してあるから。お風呂に案内して上げて!今、ジジとババは忙しいから!ついでにリンも入っちゃって!」
「分かった!じゃ、クー、こっちね。」
リンは立ち上がると、リビングを出てお風呂に向かう。
クーは
え?リン、突っ込まないの?
お風呂、一緒に入るの?
冗談でしょ?
と思った。
リンは何も言わずに脱衣場まで来る。
「タオル置いとくね。シャンプー、コンディショナー、ボディソープは、これ使って。」
リンはシャンプーやコンディショナー、ボディソープが入ったかごを渡して来た。
「じゃ、お風呂上がったら呼んでね。私も続いて入っちゃうから。」
「・・・分かった。ありがとう。」
クーは、肩を落としながら
そりゃ、そうだよね!
でも、少し期待しちゃったよ!
チキショー!
と心の中で叫んだのだった。
リンは、何事もなかったように脱衣場を出ていった。
お風呂に入ると、リンの家の風呂は一般的なユニットバスだった。
クーのアパートの風呂は、小さめで正方形の浴槽だった。
けっこう広い。
足伸ばして風呂入れるじゃん。
クーのテンションが上がる。
鏡の前に棚があったので、リンに渡されたカゴを置く。
リンが使ってるシャンプー等は、ピンク色のボトルでミルキーウェイという商品。
テレビ等のCMでよく流れている。
浴室の手すりに垢擦りとハムスターのボディスポンジがかかっていた。
リンはハムスターの方だろうな。
クーはそんな事を思いながら想像する。
裸のリンがハムスターのスポンジで体をゴシゴシ。
クーの下半身に血が集まってくる感覚があった。
ヤバい、ヤバい。
クーは顔を横に振り、ほっぺを両手で叩いて煩悩を払う。
高校の初めての女友達の家で、欲情してるわけにはいけない。
浴場だけに。
って全然うまく無いし!
クーは1人、心の中で漫才をする。
「早く洗って出よ。」
クーはシャワーで頭を洗い始める。
シャンプーを手に取ると、シャンプーの良い匂いが浴室に広がる。
この匂い、リンからする甘い良い匂いと一緒だ。
クーは、またまた裸のリンが髪を洗っている姿を想像してしまい、頭を振って、ほっぺを叩いて煩悩を払いのける。
これ、精神やられる。
クーは息を止め、匂いをかがないように高速で髪を洗っていく。
髪を洗い終え、体を洗おうと思った。
が、
え?リンのスポンジ使えって事?
リンが体のあんなところや、こんなところをゴシゴシ洗ってるスポンジで?
クーは、また裸のリンを想像してしまう。
下半身に血が集まる!
ダメだ!ダメだ!
クーは頭を振って、さっきよりほっぺを強く叩いて、煩悩を払い、手で体を高速で洗い、浴槽に入った。
クーは、足を伸ばせるなんて思っていた時の事なんて覚えておらず、浴室に広がるリンの匂いから逃げるように脱衣場に出る。
「・・・きついわ。」
クーは、ボソッと一言。
そして、クーは気づく。
バスタオルもらってない!
浴室に走ってくる足音がする。
クーは瞬時にリンがバスタオルを持ってきたと分かる。
クーは、浴室に逃げようとした時、脱衣場のドアが開く。
そこには、バスタオルを持つリン。
素っ裸なクー。
顔を真っ赤にして向かい合う二人。
「「・・・」」
リンがバスタオルをクーに押し付け、ドアを閉める。
「急に開けてごめんね!見てないから安心して!じゃ、着替えたらリビング来てね!」
ドアの向こうのリンは必死な感じで言うと、ドタバタとリビングに走って行った。
「・・・」
見てないならOK!
って見てない訳ないじゃん!
めっちゃ目あったじゃん!
俺、変態かよ!
等とクーの頭の中はカオス状態。
しばらく頭を抱えるのだった。




