リン、蔵人くんって、いっぱい食べるの?
「リン!お前、」
「あんた。うるさいよ!」
バシンッ
白髪の高齢男性の後頭部を、「必殺」と書かれた大きなハリセンで叩く白髪、細身の高齢女性が現れる。
「何騒いで!あ、リン、お帰り。早かったね。あらあら、彼氏ま一緒?これはお赤飯炊かなきゃいけないかしら。あと、リン。ちょっとおじいちゃんには、刺激強すぎだと思うからイチャイチャする場所は考えて?」
「違うよ!クーは友達。足ケガしたから送ってくれたの!まだ、彼氏じゃないから!」
「まだ、ね?とりあえずお赤飯炊くわね。」
リンのおばあちゃんは、不適な笑みを浮かべながら言う。
「あ、あの、お赤飯より、リン、さん、右足を捻挫してるみたいなんで、早く家に上げてあげて下さい。」
クーが思いきって間に入った。
「ケガした?小僧!リンに何させ、」
「だから、うるさい!」
バシンッ
白髪の女性が、また、白髪の男性の頭をハリセンで叩いて黙らせる。
「今日、体育祭だったね?転んだの?」
「うん。それで足挫いちゃってさ。痛いの我慢して歩いてたら、く、蔵人くんが支えてくれて、送って来てもらったんだよ。ジジ、ババ、誤解し過ぎ。蔵人くんに謝って!」
「あらあら、だから抱き合ってたのね。ごめんなさいね。」
白髪の女性が謝る。
どうも、白髪の老夫婦はリンの祖父母だったらしい。
「だから抱き合ってない!」
リンが反論。
「いや、何か悪かったな。まぁ、家、上がってくれや。」
リンのおじいちゃんは、さっきまで騒いでいたが、大分、冷静になったようだ。
「い、いえ、リンさんもケガしてますし、ここで、」
「いいから、いいから。入って、入って。」
クーとリンはくっついたまま、リンのおばあちゃんに押されて、家の中に入った。
クーとリンは、リンの祖父母に案内されてリビングのソファーに座る。
「もし良かったら、ご飯食べてって。」
リンのおばあちゃんが言うと、リンのおじいちゃんが
「親御さんが心配しちゃいけないから、俺から電話するわ。蔵人くん、親御さんの連絡先教えてくれや。」
とクーに言う。
「いや、そんな、大した事してませんから。あと、1人暮らしなんで 家に両親はいませんので、連絡は大丈夫です。」
とクーは帰ろうとするが、リンのおじいちゃんは
「なら、なおさら親御さんにお礼を言わなきゃいけないだろ。うちは、大事な孫のリンを送ってもらったんだから。ほら、親御さんの連絡先教えてくれ。」
と引かない。
「ジジ!クー、蔵人くん、困ってるから、」
リンがリンのおじいちゃんを止めようとすると、
「リン、蔵人くんって、いっぱい食べるの?ご飯、もっと炊いた方が良いかな?」
「え、ババ、ご飯?」
リンのおばあちゃんに邪魔される。
すると、いつの間にか、リンのおじいちゃんがクーから親御さんの連絡先を聞いたようで、すでに電話していた。
「もしもし。私、冴木源三と申します。影山蔵人くんのお父さんですか?実は、今日、ケガした孫が蔵人くんにたすけてもらってですね。大変、お世話になり、ありがとうございました。」
リンのおじいちゃんは、さっきの怒号とは正反対の声色ですらすら要件を話していた。
「で、今日はもう暗いし、遅いですから、うちでご飯食べて、泊まってってもらおうと思いまして、連絡させていただきました。いえいえ、迷惑なんて、とんでもない。学校へは、私が責任を持って送りますので。はい。ありがとうございます。それでは。」
ん?
リンとクーは、同じタイミングで首を傾げる。
「梢ちゃん!電話しといたよ。良いってさ。」
リンのおばあちゃんの名前は、冴木梢。
おじいちゃんは、源三と判明。
「源ちゃん、ありがとう。じゃぁ、ゆっくりで良いわね。」
リンのおじいちゃんとおばあちゃんは、さっきの電話から話を続ける。
いやいや、ご飯いらないって!
しかも、さっき泊まるって言ったよね!
しかも、うちの父親、許可したっぽいじゃん!
バカじゃね!?
っと、クーの頭の中はパニックに陥る。
え?クー、泊まるの?
どうしよう。部屋着で着てるくたくたのスウェット着るわけにはいかないよね?
一旦、おしゃれ普段着着る?
あ~どうしよう!
リンもパニック。
「リン。足痛いのよね?着替えて座ってて良いからね。源ちゃん!蔵人くんにお風呂入ってもらって!もう沸いてるから!着替えは源ちゃんの貸してあげて!」
「はいよ。」
リンのおじいちゃんが立ち上がる。
「蔵人くん。荷物はこっち置いといて。今、服持ってくるから待ってて。」
と言って、リンのおじいちゃんはいずこへ。
「リン。俺、泊まるみたい。お世話になります。」
クーが呆けながらリンに言う。
「あ、うん。ゆっくりしていきなよ。」
リンも呆けながら答える。
「蔵人くん。これ、俺のジャージな。あと、こっちは新品の下着。」
「ありがとうございます。」
クーはリンのおじいちゃんから服を受けとる。
「リン。足痛いだろうけど、部屋行けるか?ジジ、ついていくか?」
「え、あ、大丈夫。1人で行ける。じゃ、着替えてくるね。」
リンは、二階に上がっていった。
二人は、この時、心な中で、
「「本当に泊まる事になってんじゃん!」」
と叫ぶのだった。




