いや、これは・・・
タクシーの後部座席に高校生が二人。
クーはタクシーに乗ると、ずっと目を瞑っている。
リンは、クーが疲れて寝ていると思ったが、腕を組んでいる手の指が一定のリズムで腕から離れたり、つけたりと貧乏ゆすりみたいになっているので、起きているのに気づく。
リンは、クーが何かイライラしていると思った。
「・・・クー、怒ってる?」
「ううん。怒ってないよ。」
クーは目を瞑ったまま答える。
リンは、
怒ってないの!?それで!?
と思う。
リンは思いきって聞く。
「・・・何で目を瞑っているの?」
「だって、目を開けてたら、リンの家、分かっちゃうじゃん。」
「え?」
リンの目が点になる。
「タクシー乗る時、住所言ったから意味無くない?」
「大丈夫。聞かないようにしてたから。安心さして。」
「私、クーに知られても良いけど?」
リンが笑顔で言うと
「ダメに決まってるだろ!俺がストーカーみたいになったらどうするんだよ!リン、危機意識低いぞ!」
クーは目を瞑ったまま、真面目に答える。
リンは思う。
クーはストーカーにはならないよ。
と。
「プッ」
リンは思わず吹いて、笑い出す。
「あはは、あーお腹痛い。腹筋割れちゃうよ。」
「何言ってるんだよ。腹筋割るのそんな簡単じゃないから。」
「あはは、冗談だよ。もうクーは面白いな。仲直りできて良かった!」
すると、クーの顔が赤くなる。
「・・・それは俺も同じだよ。あのまま喋れなくなったら、本当、後悔してたと思うよ。」
「私、クーはそのままでいてくれれば良いと思う。もう周りと何しろって言わないから。」
リンは真面目な口調で言った。
「うん。そうしてくれると助かる。その方が俺も気が楽だわ。俺、こんなに素直に一緒にいれる友達なんて数年振りなんだ。リンといると心地が良い。」
リンは、クーに真面目な事を言われ、恥ずかしいのか顔が赤くなる。
「・・・クー。急に真面目な返しやめて!恥ずかしいじゃん!」
リンはそう言うと、クーの腕をバシバシ叩く。
「り、リン!痛い!やめて!分かった!謝るから!ごめん、ごめん。」
「分かれば良いのだよ。って、クー、本当、目を開けないね。」
「当たり前だ。俺はストーカーにはならないぞ!」
「本当かな?私みたいな可愛い女の子だったら、クーもストーカーになっちゃうかもよ?」
「だから、ならないように目を瞑ってるんだよ!大丈夫。怒ってる訳じゃないから。」
リンは、目を瞑るのに一生懸命なクーを見て微笑むのだった。
それから、二人はタクシーの中で殿下の話をしながら時間は過ぎて行く。
「はい。ここだね。」
タクシーの運転手さんが声をかけてきた。
クーは目を開けると、クレジットカードで支払いを済ませ、リン時一緒にタクシーを降りた。
目の前には、黒い瓦屋根の和風な二階建ての家があり、表札なや「冴木」と書かれていた。
「リン。玄関まで連れてくぞ。」
クーはリンの右側に来てリンを支えて玄関に向かう。
「クー。ありがと。」
リンは恥ずかしそうに笑いながら言った。
そして、リンが玄関を開けようと手を伸ばすと、
ガチャっ
玄関ドアノブが開いた。
玄関から出てきたのは、白髪の短髪、スラッとした体型、めがけをかけて、眉間にシワを寄せた目付きのワルい老人の男性。
口にはタバコをくわえていたので、タバコを吸いに出てきたのだろう。
老人とクーの目が合う。
「・・・てめぇ、人の家の前で、うちの可愛い孫と何、イチャイチャしてくれてんだ?」
「いや、これは・・・」
「違うの、おじい、」
「言い訳こいてんじゃねぇ!」
クーとリンは老人に怒鳴られるのだった。




