何でお前の言うことを俺が聞かなきゃいけないんだ
クーはリンとの一件から実行委員の仕事にも、リレーの練習にも来なくなった。
唯一よかったのは、応援合戦で使うヒーローショーの衣装はクーが調達したようで、例の一件の次の日にリンの机に置かれていた。
リンはクーにお礼を言おうと思ったが、クーは前にもまして忍者のように教室から消えてしまうので、確認も取れないし、お礼も言えなかった。
体育倉庫裏に行けば会えたかもしれないが、リンは何となく今は行っては行けない気がして近付かなかった。
リンは、応援合戦の配役をお願いする仕事があったので、アキト、太陽、隼人、アンナ、カレンにヒーローをお願いして、自分は司会のお姉さん役、悪役は・・・にお願いし、衣装も渡した。
そして、リンはクーと話せないまま、体育祭当日になった。
体育祭は、案外、生徒達のテンションが高く、各競技の獲得点数は競っている状況だった。
リンのクラスも大健闘で、午前中の競技な結果から優勝も狙える位置にいた。
ただ、そこにいて欲しいクーの姿はない。
昼休みになり、リンは応援合戦のヒーローショーのメンバーであるアキト、太陽、隼人、アンナ、カレンを呼んで、打ち合わせをしていた。
「皆、悪役出てきたら台本通りお願いね!」
「分かった!皆、頑張ろ!」
アキトが言った。
「でも、実行委員の仕事、結局、1人じゃん。あの陰キャ野郎。俺がなれば良かったな。」
アキトが続ける。
「・・・まぁ、やる事は終わってたから、そんなに大変じゃなかったよ。」
「でも、やるなら最後までやれって感じだよ。」
カレンが怒った表情で言う。
「そうだよ。無責任~」
アンナが続く。
「まあまあ。さぁ、応援合戦に集中しよ!」
リンが言う。
心の中では
元を正せば、皆の悪口が原因なんだけどね
と思っていた。
リンは、応援合戦に出るため、体育祭本部のテントに来る。
「五分後に応援合戦スタートするから、冴木さん、お願いね。」
本部の三年の女性な先輩に言われる。
「はい。よろしくお願いします!」
参加者の配置は完了。
あとは、曲が流れればスタートだ。
そして、曲が流れる。
今、人気のあるヒーローファイブのテーマソングだ。
リンは、マイクを持って、グランドに走っていく。
「良い子の皆!元気ですか!」
ワー!
皆、ノリが良い!
「今日は良い子の皆のためにヒーローファイブが体育祭に来てくれたよ!皆で呼んで見よう!せーの!」
「「ヒーローファイブ!!!」」
すると、ヒーローファイブの宿敵の1人「妖艶魔女イヤラシ」のテーマが流れ始める。
「あらあら。私を呼んだかしら。」
胸元がインパクトを与えるようなゴシックドレスに、黒い日傘をさした妖艶魔女イヤラシこと如月さつき、二児の母でリン達の担任である。
「何であなたが!ヒーローファイブはどうしたの!?」
「ヒーローファイブなんて来ないわ。私が偽の情報を流したからね。さあ、この体育祭をめちゃくちゃにしてやるわ!」
「待て!」
そこで、ヒーローファイブのテーマが流れる。
「ヒーローレッド参上!」
ヒーローレッドのお面をしたアキトが走ってくる。
「ヒーローブルー参上!」
続いて、隼人、その次がヒーローブラックこと太陽、次がヒーローパープルことアンナ、次がヒーローイエローことカレンが続く。
「ヒーロー戦隊ヒーローファイブ!」
五人は決めポーズを取る。
「この体育祭は俺達が守る!」
ヒーローレッドが叫ぶ。
「こしゃくな。お前達、やってしまいな!」
イヤラシこと如月先生の後ろから骸骨のお面をした下端達が現れ、ヒーローファイブと戦い、倒されていく。
最後にイヤラシこと如月先生も戦うが、ヒーローに負けて、走って逃げていく。
「この体育祭を守ってくれてありがとう!さぁ、皆でヒーローファイブの歌ったを歌うよ!」
リンの仕切りで、全校がヒーローファイブの歌を熱唱し、ヒーローファイブとリンがダンスを披露して、大盛り上がりで、応援合戦の幕が閉じた。
リンが応援合戦の終わりをステージで宣言した後、リンはステージの階段を降りた。
その時、リンは階段を踏み外し、転倒する。
「うげっ!イタタタタ」
リンは右足を挫いたようで、右足の踝あたりが赤く腫れていた。
リンは、体育祭の邪魔になるから早くどかなきゃと思い、必死に済の鵬に足を引きずりながら歩く。
そして、リンは草が生えている土手に来ると座り込む。
「あ~こりゃ、リレー無理かな。クーを傷つけてバチが当たったかな。わたしはダメダメだ。」
リンの目から涙がポロポロと落ちる。
「クーと応援合戦したかったな。仲直り出来れば良かった。クー体育祭来ないし。私がいらない気を使ったからかな?」
クーは私に皆と仲良くしたいなんて言わなかった。
悪口を言われてるのも分かっていた。
でも、選ばれたから頑張ろうと練習に来ていた。
私は、その気持ちを本当に考えていた?
周りのメンバーと仲良くなれば良いと安易に考えてなかった?
結局、私の1人よがり。
クーは体育祭に来てない。
私は、クーと一緒に体育祭を楽しみたかったのに。
全部、私が台無しにしちゃった。
リンは、一気に後悔が押し寄せてきて、涙は止まらない。
「・・・」
リンは下を向いてうつ向く。
誰か助けてよ・・・
リンは心の中で呟いた。
急にリンのカラダが浮き上がった。
「うわぉ」
リンは驚き、前を見ると、誰かの手に抱えられていた。
その手の持ち主の顔を見上げた。
クーだった。
「・・・ごめん。クラスのところに居にくくて、ここに隠れて見てた。」
「え?クー?本物?ごめん。私、クーを傷つけ、」
「もう良いよ。あれは俺が悪かった。本当ごめん。」
「ダメだよ!許さない!仲直りするまで許さないからね!」
リンはだだっ子のようになっていた。
「仲直りしよ。だから許して。」
「・・・もう、あんな事言わないでね。」
「うん。分かったよ。それじゃ、足の処置をしに行こう。」
すると、2人に近づいてくる人影があった。
アキトだった。
「冴木さん!大丈夫?って陰キャじゃねえか!何で冴木さんをお姫様抱っこしてんだよ!」
「・・・足、ケガしてるから。」
「じゃぁ、俺が連れてく!だから離せ!」
クーは思う。
何だ、こいつ。
「・・・良い。早く連れてきたいからどいて。」
「だから、俺が連れてくって言ってるだろ!まさか、お前、冴木さんが好きで良いところ見せたいんだろ!?陰キャじゃ釣り合わないっての!」
本当こいつは、リンが心配じゃないのか?
自分勝手なやつだな。
クーはアキトを無視していて保健室に向かおうと横を通り過ぎようとすると、アキトが後ろからクーの左肩を掴んでくる。
「だから離せ!」
「うるせぇな!何で俺がお前の言うことを聞かなきゃいけないんだ!どけ!」
クーはアキトに怒鳴ると、保健室に向かって歩いていく。
抱っこされてるリンは、ただただ顔を赤くする。
アキトは歩き去るクーの後ろ姿を悔しそうに睨み付ける事にしかできなかった。




