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08.待ちに待った主君の声

『聞こえるか?』


 ずっと求めていた囁きに、びくりと肩が震えた。大きな黒い首を持ち上げ、周囲を見回す。当然見える範囲にいるはずもなく……再び細く小さな声が届いた。


『俺だ、アクラシエルだ』


 そんなこと分かりきっている。主君の声を間違えたりしない。興奮状態で、返答代わりに尻尾を振った。山肌を突き抜け、溶岩が流れ出す。外で雨に当たったマグマが水蒸気を作り、どかんと吹き飛んだ。


 揺れる大地を気にせず、アザゼルは耳を澄ませる。


「我が君、どちらですか。お迎えにあがります」


『迎えの前に、相談があるから一人でこっそり静かに来い。誰かにバレるでないぞ? あと、今は人の子に憑依しているゆえ、いきなり攻撃するな』


「はぁ……」


 妙なことを言い出した。そんな思いが過るが、半年以上も行方知れずだった主君に会えるなら、質問は後回しだ。アザゼルは了承を伝えた。居場所を知らせる声に頷き、うーんと唸る。


 人族の子に憑依しているなら、その子を潰すと不安定なアクラシエルも危険だ。何か他の生き物に化けて、会いにいくのが正解だろう。癪だが人の姿になるか? しかし……迷うアザゼルに、追加の心話が入った。


『そうだった! チョコレートを買うから、宝石を持ってきてくれ。大粒がいい』


「承知しました」


 大粒と我が君が指定したなら、ドラゴンがみくびられることのないサイズが必要だ。確か、洞窟の奥にいくつかしまっていたはず。山肌を崩した穴を忘れ、アザゼルがのそりと動く。体で堰き止めていた溶岩が流れ出て、マグマの赤い炎が山を焦がしながら麓へ走った。


 後ろの火事をまったく気にせず、アザゼルは洞窟の奥に頭を突っ込む。かき集めた宝石を眺め、手のひら大のサファイアを掴んだ。


「種類の指定はなかったですが、このくらいあれば足りますかね。ちょこれーと、とやらは何をする道具でしょう」


 聞いた事はないが、竜王アクラシエルが欲しがるくらいだから、相当役に立つのだろう。こそこそと準備をした。成果なく戻ってきた小竜達を労い、休むよう伝えて外へ出る。


「おや、噴火したのですか」


 噴火させた自覚皆無のアザゼルは、首を傾げて飛び立った。指定された地点は南東方向、憎き勇者が誕生した街の方角だ。勇者ごと踏み潰して、炎で焼き払ってやりたい……が、まずは竜王陛下の無事を確かめることが最優先だ。


 うっかり人族に憑依したと仰ったが、ここは依代を用意して移動してもらうべきだろう。最近生まれた竜の卵を探しましょうか。それでは親が気の毒ですね。他の手段を考えましょう。大きな翼を広げ、火の粉を散らしながら舞う黒竜が、地上からどう見えるのか。


 浮かれたアザゼルが考慮するはずもなく。勇者が旅だった都は、魔王の襲来だと大騒ぎになっていた。


 ――アザゼルのやつ、静かに来いと言ったのに。これでは他の竜に居場所がバレるではないか。


 ふんと鼻を鳴らした幼子は、雨の止まぬ庭で仁王立ちして配下を待った。

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