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41.竜王による魔王緊急招集

「バアル! ゲーデでもいい! 大至急ここへ来い」


 世界中に響き渡る心話で呼び出され、二人は顔を見合わせた。魔王城の一部を、勇者対策バージョンに改築中だ。竜王陛下のお呼び出しとあれば、そんな作業は後回しだった。魔王城の部下達に「後を任せる」と言い残して転移する。


 洞窟の入り口で深呼吸した。中には大量のドラゴンの気配があり、そこへ転移する勇気はない。歩いてこそこそと入った。


「失礼します」


「お呼びと伺い参上いたしました」


 低姿勢で竜王アクラシエルの前に立つ。腰に手を当てて偉そうに立つ……殻付きの幼体。鱗と殻が銀色なので、かろうじて「竜王様なんだな」と判断された。やはり威厳は皆無だった。


「これは……偽物なのか?」


 両手にべっとりと焦茶色の液体を付けたアクラシエルに問われ、二人は顔を見合わせた。近付くと匂いが強くなる。甘ったるい香りは間違いなく、チョコレートだった。


「ナベルスの術を解いたら、この通りだ」


 怒っているのかもしれないが、なんとも迫力に欠ける。それでも神妙な顔を作り、バアルが先に口を開いた。


「恐れながら……チョコレートは熱に弱いのです。以前、アザゼル様の洞窟でも溶けてしまったのですが」


 覚えておられないのですか? 問われて、アザゼルは「ああ、そういえば」と頷く。すっかり忘れていたらしい。足に殻を付けた主君を抱き寄せているのは、慰めていたのか。アクラシエルは驚いた顔で、両手のチョコレートの残骸を眺めた。


「溶けるのか」


「はい。おそらくナベルス様の氷から出したこと、この部屋が暖かいことが原因です」


 ゲーデも丁寧に説明する。心臓に悪いので、こんな呼び出しはしないでほしい、遠回しに付け加えた。そこまで聞いて、アクラシエルはにっこり笑った。幼竜姿なので、なんとも愛らしい。


 ただ洞窟に充満した甘い香りは、ちょっと辛い。風を操り、換気を始めるドラゴンが現れた。外のやや冷えた風が掠めると、一度溶けたチョコの表面が固まる。


「おお! 元に戻るぞ」


 これなら食べられると喜ぶアクラシエルは、ゲーデが止めるより早く口に入れた。それから微妙な味に、なんとも言えない表情を見せる。泣きそうな、悲しそうな……。


「凍らせたり溶かしたりを繰り返したチョコレートは、美味しくありません。冷やしたならそのまま召し上がる方がよろしいかと」


 進言するゲーデに「物知りだな」と褒めるアクラシエルは、アザゼルの抱っこから抜け出そうともがく。が諦めて頼んだ。


「外でチョコレートが食べたい」


「承知いたしました、我が君。何でも私にお申し付けください」


 満面の笑みで抱き上げ、母竜のように甲斐甲斐しく竜王の面倒を見るアザゼル。暖かな洞窟を出て、外でナベルスにチョコレートを出すよう指示した。並べられた氷をゆっくり溶かし、チョコレートが外気に触れる手前で止める。


 熱の調整が得意な火竜らしい繊細な作業だった。まだうっすら氷に包まれたチョコレートを、爪で突き刺してアクラシエルへ差し出す。


「さあ、アクラシエル様。あーん」


 真っ赤な顔で「屈辱だ」と言いながらも、素直に口を開く竜王。それを見守るドラゴンのほのぼのした光景……。


「何を見せられているんだと思う?」


「ゲーデ様、お口を閉じてください」


 魔王とその側近は、チョコレートの甘さに目を細めて身悶える竜王を見守る。ここから逃げ出す術はなかった。

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